
相続税の限界税率と実行税率とは?2つの税率の違いと具体的な計算例
「もし父が亡くなってしまったら、相続税っていくら納めることになるのだろう?心配になって色々調べてみたが、相続税の税率を速算表というもので調べて計算するらしい・・・。限界税率という税率があるらしいが、何か特別な税率なのだろうか?」
相続税は、取得する財産に対し、一定の税率をかけて計算します。どのくらいの相続税がかかるのか知りたいと思っても、計算方法はかなり複雑で、いくつかの段階を踏まなければなりません。しかし、限界税率が分かれば、相続税をご自身で計算することは無理なことではありません。
本記事では、限界税率を把握するための相続税の計算ステップを、事例とともにご説明いたします。また、相続税を知るには、実効税率という、もう一つの税率を意識することも大事です。この2つの税率の違いについて、知識を深め、相続税を把握し、節税対策のために役立てていただければと思います。
Contents
1. 相続税の限界税率とは「相続税の速算表」で確認できる
相続税の限界税率とは、国税庁のホームページに掲載されている「相続税の速算表」(早見表)の税率のことで、相続税を計算する過程で使います。現在の税率は「2015年1月1日以後」に発生した相続において、適用される税率です。
累進課税制である相続税は、取得する財産額に応じて、最低10%から最高55%の8段階に分かれた税率が適用されます。
例えば、取得金額が3,500万円だとすると、3段階目の税率20%(200万円の控除あり)に当てはまります。
図1:相続税の速算表(限界税率)
2. 相続税でおさえるべき税率は2つ!「限界税率」と「実効税率」の違い
相続税を計算するためにおさえておくべき税率は、限界税率だけでなく、実効税率を把握することも必要となります。
限界税率は「相続税を計算するために必要な数値」ですが、実効税率の方は「相続で取得した財産に対し、どのくらいの相続税を負担するのか、その割合を示した数値」であり、低ければ低いほど負担が少ないことを示しています。限界税率と実効税率は、まったく別の税率です。
実効税率には、実際の取得割合が大きく影響しています。相続税の納付額を計算することができるのは限界税率で、よりリアルな税負担の割合をイメージできる実効税率は、節税対策に役立てることができます。
3. 【計算事例】限界税率を使って相続税を計算する
限界税率は、相続財産の総額に直接かけるという単純な考え方ではありません。また、実際に取得した金額の段階に応じた税率をかけるわけでもありません。
相続税は、段階的なステップを踏んで、考え方を整理していくと、とっても分かりやすいです。どの段階の限界税率を適用することになるのか、具体的な事例で確認していきましょう。
3-1. 限界税率を使うまでの5つのステップ
【事例】
法定相続人:お母さま、長男、長女
相続財産:不動産1億円 預貯金3,000万円 有価証券2,000万円
【限界税率を確認するまでの5つのステップ】
ステップ①:相続財産の総額(プラスの財産-マイナスの財産)を求める
ステップ②:法定相続人の数から基礎控除額を求める
ステップ③:相続税の課税対象財産の総額を求める
ステップ④:法定相続分における各人の取得価格を求める
ステップ⑤:取得価格に該当する「限界税率」を確認する
ステップ①では、相続財産を個別に評価して、総額を求めます。財産には、借金などのマイナスの財産も含まれ、プラスの財産から差し引き、総額を計算します。また、不動産などの評価は、とても複雑で専門的な知識が必要となるため、正確な相続税を把握するためには、税理士にご相談いただくことをお勧めいたします。
【相続財産の総額】
不動産1億円(評価額)+預貯金3,000万円(残高)+有価証券2,000万円(残高)=1億5,000万円
※相続税の評価について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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※株式の評価について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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ステップ②は、計算式に当てはめ、基礎控除額を求めます。相続人とは「法定相続人」のことであり、財産を引き継ぐすべての方を含めるのではありません。
図2:基礎控除額の計算式
【基礎控除額】
3,000万円+(600万円×法定相続人の数3人)=4,800万円
ステップ③では、相続税の課税対象となる財産の総額を求めます。ステップ①で求めた相続財産の総額から、ステップ②で求めた基礎控除額を引きます。残った金額が「課税対象財産の総額」です。
【課税対象財産の総額】
1億5,000万円-4,800万円=1億200万円
図3:課税価格の式
ステップ④では、ステップ③の課税対象財産の総額を、いったん法定相続分で分けたと仮定して、各人の課税価格を求めます。課税対象財産の総額に、法定相続分の割合をかけて計算します。
【法定相続分:奥さま2分の1、長男4分の1、長女4分の1】
お母さまの課税価格:1億200万円×1/2=5,100万円
長男の課税価格:1億200万円×1/4=2,550万円
長女の課税価格:1億200万円×1/4=2,550万円
図4:法定相続分
※法定相続分について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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ステップ⑤で、各人の課税価格に応じた「限界税率」を相続税の速算表から確認します。
【各人の限界税率】
お母さまの限界税率→「1億円以下」に該当し「30%(700万円の控除あり)」
長男の限界税率→「3,000万円以下」に該当し「15%(50万円の控除あり)」
長女の限界税率→「3.000万円以下」に該当し「15%(50万円の控除あり)」
図5:速算表から「限界税率」を確認する
3-2. 限界税率を使って各人の納税額を計算する
適用する限界税率が判断できれば、具体的な相続税の納税額を求めることができます。
【仮の相続税を法定相続人ごとに計算する】
先述したステップ④、ステップ⑤の数値を用い、いったん法定相続分で分けたと仮定したときの相続税を計算します。各人の課税価格に、限界税率をかけ、税率に応じた控除額を引きます。
お母さまの(仮)税額:5,100万×30%-700万円=830万円
長男の(仮)税額:2,550万円×15%-50万円=332.5万円
長女の(仮)税額:2,550万円×15%-50万円=332.5万円
仮の相続税額をすべて合算し、「相続税の総額」を求めます。
【相続税の総額を求める】
830万円+332.5万円+332.5万円=1,495万円
相続税の総額が把握できたところで、この税額を実際の取得割合に応じて按分します。
【実際の取得割合】
お母さま5分の1(20%)、長男5分の2(40%)、長女5分の2(40%)に応じた税額
お母さまの納めるべき相続税額:1,495万円×20%=299万円
長男の納めるべき相続税額:1,495万円×40%=598万円
長女の納めるべき相続税額:1,495万円×40%=598万円
なお、お母さまには「配偶者の税額軽減」が適用されるので、納税額はゼロとなります。
【納税額:1,196万円】
お母さま:0円、長男:598万円、長女:598万円
以上のように、相続税の計算は、いったん法定相続分で分けて、各人の相続税額を求め、合算して相続税の総額を確定します。相続税の総額は、実際に取得した割合に応じて按分し、最終的な納税額が決まります。
4. 具体的な実効税率の求め方
次に、実効税率の求め方を、3章の事例から確認してみましょう。
お母さまの場合は、特例が適用されて相続税がかからないので、実効税率は「ゼロ」ですね。長男(長女も同じ)の場合は、実際に負担する税額を取得した相続財産の額で割り、実効税率を求めることができます。
【長男・長女の実効税率】
長男・長女が実際に取得した金額:1億5,000万円×40%=6,000万円
実効税率:598万円÷6,000万円=0.0996 → 9.96%
長男、及び長女は、実際に取得した財産の約10%に値する相続税を支払う必要があります。
図6:「限界税率」と「実効税率」のイメージ
5. 相続税の節税対策は実効税率から判断する
相続税の節税対策の1つとして「生前贈与」する方法があります。しかし、贈与と相続ではどちらが得だろう?となかなか判断が難しい場合があります。そのような場合、相続税と同様に、贈与税の実効税率を計算し、比較してみると、対策をおこなうべきかどうか判断する参考になります。
【生前贈与の判断基準】
相続税の実効税率が、贈与税の実効税率より大きければ「節税効果あり」
相続税の実効税率が、贈与税の実効税率より小さければ「節税効果なし」
6. まとめ
限界税率についてご理解いただけましたでしょうか?相続税を計算するためには、限界税率を確認する必要があり、8段階中のどの限界税率が適用されるのかは、ステップを順に踏んで確認します。
また、実際に支払う相続税を計算するためには、いったん法定相続分の応じた各人の相続税を求め、相続税の総額を確定させた上で、実際の取得割合に応じて納税額に按分します。
相続税には、限界税率の他に、取得した財産に対し、負担した相続税の割合を示す実効税率があります。相続税の実効税率と、贈与税の実効税率を比較すると、節税対策をおこなう判断の目安になります。
限界税率や実効税率が意味していることを理解できれば、相続税の計算や、節税対策に役立てることができます。正確な判断をするためには、専門家である税理士の力を借りた方が安心できると思いますので、相続税にご不安な場合は、お早めにご相談いただければと思います。