親の借金は亡くなったら子が相続する!相続しない方法と注意点を解説

  • 相続手続き

「亡くなった親の借金は相続しなければならないのだろうか…」

亡くなられた方の相続財産には、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産も含まれます。親の借金は相続人であるお子さんに引き継がれます

親の借金を肩代わりするなんて到底むずかしいとお考えでしょう。返済義務を免れたい場合はどうしたらよいのでしょうか。

本記事では、親の借金を相続したくないときの手続きと親の借金を相続しなければいけないケースについて詳しくご説明いたします。親の借金の返済義務がなくなる時効と親の借金の調べ方についても参考にしていただければと思います。

1.親の借金は亡くなられたら子が相続する

法定相続人には優先順位があります。親が亡くなられたときに相続人になるのは「亡くなられた方の配偶者と子ども」であり、配偶者がいない場合は「子どものみ」です。亡くなられた親の借金(マイナスの財産)は、預貯金や不動産(プラスの財産)と同じように相続財産として相続人が引き継ぎます

図1:法定相続人には優先順位がある
法定相続人には優先順位がある

図2:親の借金は相続財産として子が相続する
親の借金は相続財産として子が相続する

 

2. 親の借金を相続したくないときの対策

相続人は、相続の開始があったことを知ったとき(一般的には亡くなられた日)から3ヶ月の熟慮期間内に相続方法を選択しなければなりません。具体的には、借金を含むすべての財産を相続する「単純承認」、すべての財産を相続しない「相続放棄」あるいはプラスの財産の範囲内でマイナスの財産も引き継ぐ「限定承認」のいずれかを決めます。

相続放棄か限定承認の手続きを行えば、親の借金を相続しなくて済みます。相続人はこの3ヶ月の期間内に手続きをしなくてはなりません。

図3:3ヶ月以内に相続の方法を決める
3ヶ月以内に相続の方法を決める

2-1.相続放棄

相続放棄とは、亡くなられた方のすべての財産を引き継がずに放棄することです。相続放棄をすると初めから相続人でなかったものとみなされます。親の借金が多額である場合など、プラスの財産よりも明らかにマイナスの財産が多い場合は、相続放棄することにより親の借金の返済義務を負う必要がなくなります

なお相続放棄の手続きをする際に子が全員相続放棄すると、祖父母(第二順位の相続人)や、おじおば、またはその子(第三順位の相続人)がいる場合が相続順位に従って相続人になりますので、親族間でのトラブル防止のためにも、親に借金があり相続放棄を行ったこととそれによって次に相続人となることはあらかじめ伝えておきましょう。

図4:相続放棄の手続き方法
相続放棄の手続き方法

図5:相続放棄をすると次順位の人が相続人になる

相続放棄をすると次順位の人が相続人になる

※相続放棄について詳しくは、こちらを参考にしてください。

2-2.限定承認

限定承認とは、相続により取得したプラスの財産を限度として、マイナスの財産も引き継ぐことです。マイナスの財産が多くても引き継ぎたい財産(家業やご自宅など)がある場合に選択します。親の借金が多額で相続財産を超える場合でも、その超過分を相続しないことができるため、相続人の財産で弁済する必要がありません。

ただし、限定承認は、相続人全員の手続きが必要であることや債務清算手続きが複雑であることなどからほとんど利用されていません。

図6:限定承認はプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ
限定承認はプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ

3. 親の借金を相続しなければならない3つのケース(法定単純承認)

親の借金を単純承認すると選択していない場合であっても、下記3つのケースでは単純承認したとみなされます(法定単純承認)。熟慮期間の3ヶ月以内であっても相続放棄や限定承認の手続きをすることができなくなりますので注意が必要です。

①3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄・限定承認をしない
②相続財産の全部または一部を処分した
③相続財産を故意に隠す・消費する・財産目録に記載しない

※単純承認について詳しくは、こちらを参考にしてください。

3-1. 3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄・限定承認をしない

親の借金を相続しないためには、相続放棄または限定承認を選択する必要があります(2章参照)。これらの手続きには、相続開始を知った時から3ヶ月以内の期限があります。そのため手続きを何もしないまま3ヶ月を過ぎると自動的に単純承認したことになります。

相続財産の調査に時間がかかり負債がどのくらいあるのかわからない場合などは、家庭裁判所に「相続放棄の期間伸長の申立て」をおこない、許可を得て熟慮期間を延長することができます。

3-2.相続財産の全部または一部を処分した

相続財産の処分とは、亡くなられた親の借金を相続財産から支払うことや預貯金の引き出し不動産の売却家屋の取り壊しなど「財産の現状や性質等を変更、財産権の法律上の変動を生じさせる行為」のことをいいます。相続財産を処分すると単純承認をしたとみなされます。

特に気を付けなければいけないものは、未受領の高額療養費還付金医療保険の入院給付金などです。これらは本来亡くなられた親が生前に受け取る権利があったものの、相続の発生により受け取れなくなったお金で相続財産に該当するため、相続人である子が代わりに受領すると相続財産を処分したとみなされ、単純承認に該当する場合があります。どちらも役所への社会保険の届出や、生命保険金の受け取りの手続きの際に、案内されるまま意図せずあわせて手続きを行なってしまい、受領してしまうというケースがあるので、放棄を検討している際はよく注意しましょう。

なお、受取人が指定されている生命保険に関しては相続人固有の財産ですので相続財産には該当せず、受け取っても問題はありませんが、受取人がすでに亡くなられた配偶者のまま変更されていなかったり、空欄になっているようなケースでは生命保険であっても相続財産に該当しますので、こちらにも注意が必要です。

また、葬儀費用や仏壇、位牌、墓地など祭祀に関する費用については相続財産から支払っても原則として単純承認にならないとされています。個別のケースについてご心配な方は専門家にご相談されることをおススメいたします。

3-3.相続財産を故意に隠す・消費する・財産目録に記載しない

相続放棄や限定承認をした後に、相続財産を故意に隠して取得したり、消費したり、財産目録に記載しないなど信用、信頼を失わせる行為をおこなった場合は単純承認したとみなされます。

4. 亡くなられた親の借金の時効は原則5年

親の借金には時効があり、最後の返済期日の翌日から原則として5年です。この間に債権者から支払督促などを受けていなければ、債権者に対して「借金は消滅時効を迎えているから返済しません」と伝える(時効の援用)ことにより時効は成立します。

5. 亡くなられた親の借金の調べ方

親の借金がどのくらいあるのか分からないため、相続の方法を選択できないとお困りの方もいらっしゃると思います。親が亡くなった後に借金の有無や金額を調べる方法をご説明いたします。

5-1.預貯金通帳を確認

親の預貯金通帳を確認することにより、借金の有無や返済状況を把握することができます。取引履歴から借入先がわかります。

5-2.金融機関からの請求書や利用明細などの郵便物を確認

金銭消費貸借契約書や金融機関からの請求書などを探しましょう。特に、ローンやクレジットカードの利用明細、督促状などが重要です。親の手帳に記録されている可能性もあるため、念のため確認するとよいでしょう。

5-3.個人信用情報機関に照会

個人信用情報機関はクレジットやローンなどの取引情報について記録・管理しています。亡くなられた親の信用情報は、法定相続人であるお子さんは開示請求することができるため、親に借金があるのか確認できます。

全国銀行個人信用情報センター 
株式会社シー・アイ・シー 
株式会社日本信用情報機構 

※借金の調査ついて詳しくは、こちらを参考にしてください。

6.まとめ

法定相続人は相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に単純承認、限定承認、相続放棄という相続の方法を選択しなければなりません。熟慮期間内に手続きをしなければ親の借金を相続することになります。親の借金を相続したくない場合は、相続放棄または限定承認を検討しましょう。

相続の方法を決めるまでは親の相続財産を売却するなど処分しないようにすることが大切です。相続財産の処分は単純承認したとみなされますので、後から多額の借金が見つかった場合などに相続放棄や限定承認ができなくなる可能性があります。特に各種還付金や医療保険の給付金などは意図せず受領してしまい、相続財産を処分したとみなされてしまうケースがあるので、細心の注意が必要です。

まずは親の借金を調べて相続財産の全容を把握しましょう。親の借金がどのくらいあるのかわからない、相続放棄すべきかわからない、相続放棄したいのに相続財産を処分してしまったなどご不安がある方は相続に強い専門家にご相談されることをおススメいたします。

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