相続放棄申述書の書き方と提出手続き|添付書類一覧・記入例・受理通知書まで徹底解説
- 相続手続き
「相続放棄をしたいけれど、どの書類をどう準備すればよいのか分からない…」
大切な家族を亡くした悲しみの中で、相続問題、特に負債の存在に直面することは、計り知れない不安を伴います。
この不安を解消し、亡くなった方(被相続人)の借金などのマイナス財産を含むすべての財産を引き継がないために必要なのが、家庭裁判所への相続放棄申述です。
本記事では、相続放棄の手続きに必要となる申述書のダウンロード方法や記入例、添付書類の一覧、提出後の流れまでを徹底的に解説します。
目次
1. 相続放棄の基本と申述書の役割
相続放棄の手続きを進めるにあたり、まず理解しておきたいのが「相続放棄とはどのような制度か」、そして「申述書がどんな役割を果たすのか」という点です。基本から整理しましょう。
1-1. 相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産を一切引き継がないと決める手続きです。プラスの財産(預金や不動産など)とマイナスの財産(借金や債務など)をすべて放棄することになります。特に、被相続人に多額の借金があるケースでは有効な手段です。
この手続きには期限(熟慮期間)があり、「自己のために相続の開始があったことを知った日から3カ月以内」に、家庭裁判所に申述する必要があります。この期間を過ぎてしまったり、財産を処分したりすると、借金も含めてすべてを相続する(単純承認)とみなされ、後からの放棄は原則としてできなくなるため、注意が必要です。
1-2. 相続放棄申述書の役割
相続放棄申述書とは、相続人が被相続人の財産・債務を一切引き継がないという意思を家庭裁判所に正式に伝えるための申述書類です。この申述書を作成し、必要な添付書類とともに家庭裁判所に提出することが、相続放棄の第一歩となります。
2. 相続放棄申述書の書式ダウンロードと記入例
相続放棄申述書は、自分で一から作成する必要はありません。家庭裁判所の公式サイトから誰でもダウンロードできます。ここでは、書式の入手方法と、成人用・未成年者用それぞれの記入例を紹介します。
2-1. 公式書式の入手方法と記入方法
相続放棄申述書は、家庭裁判所の公式ウェブサイトからダウンロードできる全国共通の書式を使用します。また、最寄りの家庭裁判所の窓口で直接入手することも可能です。
記入は手書きでもパソコン入力でも構いません。手書きの場合は、黒のボールペンや万年筆を使用してください。
もし記入ミスをした場合は、誤字の箇所に二重線を引き、訂正印(申述書に押した印鑑と同じもの)を押印した上で、正しい内容をそばに書き加えます。修正液や修正テープの使用は認められませんので注意しましょう。
2-2. 成人用 相続放棄申述書【記入例】
成人が自ら相続放棄を申し立てる場合の記入例です。
2-3. 未成年者用 相続放棄申述書【記入例】
未成年者が相続人の場合、親権者などの法定代理人が申述書を記入します。未成年者の相続放棄で、親(親権者)と子(未成年者)が共同相続人である場合、子だけが相続放棄をすると、親の相続分が増えることになり「利益相反」となります。
そのため、親は子の代理として相続放棄の手続きを行うことができません。手続きを進めるには、家庭裁判所に申し立てを行い、未成年者のために「特別代理人」を選任する必要があります。ただし、共同相続人ではない場合(父親の代襲相続人となっている場合など)は、特別代理人は不要です。
- 申述人の記名押印:法定代理人の氏名と印鑑を使用。
- 申述人欄:未成年者本人の氏名・生年月日・住所・本籍を戸籍謄本どおりに記入
- 法定代理人欄:申述を行う親権者の氏名・住所・申述人(未成年者)との関係を記入
3. 【項目別】相続放棄申述書の詳しい書き方ガイド
相続放棄申述書には複数の記入欄があり、戸籍通りの正しい記載や、理由欄の適切な書き方が求められます。ここでは、各項目を一つひとつ取り上げ、実例を交えて解説します。
3-1. 申述人欄の書き方
申述人とは、相続放棄をしたいと考えている本人の情報です。
- 本籍: 添付する戸籍謄本に記載されている通りに、都道府県から地番まで省略せずに正確に記入
- 住所: 添付する住民票に記載されている通りに、正確に記入
- 氏名: 戸籍に記載されている通りに記入し、必ず押印(実印である必要はない。認印で可)
- 職業: 現在の職業を具体的に記入(例:会社員、自営業、主婦など)
- 連絡先: 日中に家庭裁判所からの連絡が取れる電話番号を記入
3-2. 法定代理人欄の書き方
申述人が未成年者や成年被後見人などの場合に、代理人が記入します。
3-3. 被相続人欄の書き方
被相続人の氏名・本籍・最後の住所・死亡当時の職業・死亡日を記載します。
3-4. 申述の理由欄の書き方(具体例つき)
相続放棄申述書の「相続の開始を知った日」は、熟慮期間の起算点となるため、最も重要な項目です。この日付は、単に被相続人が亡くなった日ではなく、「被相続人の死亡の事実と、ご自身が法律上の相続人になったという事実の両方を知った日」を記入します。
- 被相続人死亡の当日
・被相続人と同居しており、すぐに死亡を知った場合
・電話などで死亡の事実をすぐに知った場合 - 死亡の通知を受けた日
・被相続人が亡くなってから数日〜数週間後に死亡の事実を知らされた場合 - 先順位者の相続放棄を知った日
・先順位の相続先が相続放棄をしたため、自身が相続人となったことを知った場合 - その他
被相続人の死亡日を知っていたが、後になって多額の借金があることを知ったなど、上記の選択肢に当てはまらない場合や「相続開始を知った日」が3ヶ月を超えてしまう場合などは、やむを得ない事情がある場合に限り、「上申書(事情説明書)」を添付することで、相続放棄が認められる可能性があります。
- 遺産分割協議に関与したくないため
- 被相続人とは長年疎遠であり、相続に関与する意思がないため
- 借金の有無が不明で、多額の負債がある可能性があり、相続を希望しないため
図9:申述の理由(放棄の理由)欄の書き方(例)

3-5. 添付書類欄の書き方
申述書とセットで提出する書類を記入します(詳細は4章参照)。
図10:添付書類欄の書き方(例)

3-6. 収入印紙と貼付方法
申述書には収入印紙(800円)を貼付します。さらに、郵便切手を別途同封する必要があるため、裁判所の案内を確認してください。
4. 相続放棄申述書の提出先と必要な添付書類
申述書を完成させたら、提出先と必要書類を確認しましょう。添付書類は被相続人と申述人の関係により異なるため、パターン別に整理して解説します。
4-1. 提出先は「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」
相続放棄申述書は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。管轄の裁判所は、裁判所のホームページの申立書提出先一覧(家庭裁判所)で確認できます。
4-2. 申述書とセットで必要な添付書類一覧
申述書に加えて、「誰が、誰の相続を放棄するのか」という関係性を証明するために、戸籍謄本などの書類を提出する必要があります。相続人の立場によって、必要な書類が異なります。
【共通して必要な書類】
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
図12:申述書とセットで必要な添付書類一覧
|
相続放棄する人(申述人) |
被相続人との関係 |
追加で必要な主な添付書類 |
|
配偶者 |
常に相続人 |
3.被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本 |
|
子 |
第1順位の相続人 |
3.被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本 |
|
孫、ひ孫等 |
第1順位の代襲相続人 |
3. 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本 |
|
父母、祖父母等 |
第2順位の相続人 |
3. 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本 |
|
兄弟姉妹、おい、めい |
第3順位の相続人 |
3. 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本 |
4-3. 収入印紙の貼付と書類の提出方法
申述書を提出する際には、申述費用として収入印紙と郵便切手を準備する必要があります。提出は、家庭裁判所の窓口に直接提出するか、郵送で行います。郵送の場合は、配達の記録が残る簡易書留などで送付することをおすすめします。
- 収入印紙:申述書1通につき800円
- 郵便切手:各家庭裁判所指定の金額を準備
5. 申述書提出後の流れと「相続放棄申述受理通知書」
申述書を提出した後は、家庭裁判所からの照会書や受理通知書のやり取りが続きます。この流れを理解しておけば、不安なく手続きを進められます。ここでは提出後のステップと、通知書の効力について解説します。
5-1. 申述書提出から相続放棄が認められるまでの流れ
申述書を家庭裁判所に提出した後、相続放棄が正式に認められるまでには、通常以下のような流れを辿ります。
- 申述書・添付書類の提出
管轄の家庭裁判所に提出します。 - 家庭裁判所から照会書が送付(約1〜2週間後)
家庭裁判所から申述人宛に照会書が郵送されます。これは、申述書の内容が真実であるか、また本当に申述人が自らの意思で放棄するのかを確認するための重要なステップです。 - 審理と受理決定
裁判所が回答内容を審理し、相続放棄が民法の要件を満たしていると判断すれば、受理が決定されます。
図12:申述書を提出してから相続放棄が完了するまでの流れ

5-2. 「相続放棄申述受理通知書」の受領と効力
相続放棄が受理されると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送付されます。これは、債権者や他の相続人に対し「相続放棄をしたこと」を証明する重要な書類です。銀行・保証会社・貸金業者などに提示することで、法的に請求を免れることができます。
図13:相続放棄申述受理通知書
※相続放棄受理証明書について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
6. まとめ
相続放棄申述書は、相続放棄を成立させるために必ず必要な公式書類です。
「これで本当に手続きは大丈夫だろうか」「戸籍の収集や書類の準備が複雑で自分では対応できないかもしれない」と感じるのは、自然なことです。特に、戸籍収集の手間や、財産処分行為(単純承認)に該当するかどうかの判断には専門知識が求められます。
OAGコンサルティンググループでは、そのような不安を抱えるお客様に寄り添い、確実に手続きを完了できるよう全力でサポートいたします。無理に一人で進めず、専門家(弁護士・司法書士)と連携しながらご相談いただくことで、お客様が安心して次の生活に進めるよう、責任をもって手続きをサポートいたします。

- 監修者情報
- OAG税理士法人 相続チーム 部長奥田 周年
専門分野:相続税、事業承継
(東京税理士会:登録番号83897) 1994年OAG税理士法人に入所。承継相続分野における第一人者として、相続を中心とした税務アドバイスを行うほか、事業承継や相続関連で多数の著書を執筆、監修するなど、幅広く活躍している。












