家督相続とは?相続トラブルを防止のため知っておくべき現代の相続制度の違いと対処法

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かつての日本には「家督相続(かとくそうぞく)」という特有の相続制度が存在していました。
これは戦前の旧民法に基づくもので、家督を継ぐ者(多くは長男)が家や財産を一括して相続する仕組みでした。現在の民法ではこの制度はすでに廃止されており、相続人全員で遺産分割を協議することが原則とされ、合意ができない場合には法定相続分を目安に遺産が分割されます。

制度としてはすでに存在しない家督相続ですが、その考え方や慣習が、今なお不動産の名義や遺産分割の場面に影響を及ぼしているケースも見られます。
本記事では、家督相続とはどのような制度だったのかを歴史的背景から解説し、現行の相続制度との違い、そして現代でも家督相続的な主張がなされる場合の対応についても取り上げます。
無用な相続トラブルを防ぐためにも、ぜひ参考にしてください。

1.家督相続とは長男が財産を単独相続する仕組み

家督相続とは、旧民法に基づく相続制度です。主に長男が、家の財産と一家の主人である家長としての地位を、単独で相続できる仕組みをいいます。
長男が最優先の相続人とされ、他の兄弟姉妹や配偶者には原則として相続権がありませんでした。長男がいない場合は、二男や祖父母などが相続人となることもありましたが、親族会の選定が必要でした。
また、相続放棄は原則として認められず、長男は負債を含むすべての権利義務を引き継がなければならないとされる制度でした。
家督制度は戦後昭和22年の民法改正(日本国憲法の施行)により廃止され、これに伴い家制度も撤廃、個人単位での相続と権利尊重を基本とする現在の民法に移行しました。

2.家督相続と現代の相続の違い

新しい民法が施行され、個人の権利が尊重されるとともに相続人の範囲が大幅に拡大されました。
家督相続と現代の相続にはどのような違いがあるのか、ご紹介します。

図1:家督相続と現代の相続の違い

2-1.相続人の範囲と順位

家督相続では長男が優先され、他の家族は基本的に相続権がないのに対し、現代の制度では、配偶者や子どもが平等に相続権を持ちます。

表1:相続人の範囲と順位の違い

区分

家督相続

現代の相続

相続の範囲

・家の財産すべてを引き継ぐ

・戸主の地位や家族に対する権利・義務も承継(扶養義務、婚姻許可権なども含む)

・個人の財産のみが相続財産の対象

・戸主制度、家制度は廃止(家の地位・義務の承継はなし)

・限定承認が可能

相続人の数

原則1人(主に長男)

相続人(複数人)で分割相続

配偶者の相続権

原則なし

常に相続人(他の順位と共同相続)

相続順位

① 長男② 二男③ 直系尊属(親族会の選定)

① 子(直系卑属)② 直系尊属(父母・祖父母)③ 兄弟姉妹
※配偶者は常に相続人

2-2.相続発生のタイミング

 家督相続と現在の相続では相続発生のタイミングにも違いがあります。
現在の相続制度では、相続が発生するのは「亡くなった時のみ」で、死亡診断書に記載された死亡日が相続開始日となります。
一方で、家督相続の場合は以下のタイミングで相続が発生します。

表2:相続発生のタイミングの違い

相続制度

相続が発生するタイミング

概要

家督相続

戸主の死亡

最も一般的な相続開始のケース

戸主の隠居

60歳を過ぎて隠居生活を始めた場合など

婚姻による戸主の変更

女性戸主が入夫婚、または男性戸主が婿養子に入った場合

国籍喪失や離婚

特定の事情により戸主がその資格を失った場合にも相続が開始されることがあった

現在の相続制度

被相続人の死亡

死亡診断書に記載された死亡日が相続開始日となる

2-3.相続放棄の可否

 家督相続では、基本的に財産のすべては長男が相続するもので、相続放棄は原則として認められていませんでした。そのため借金などの負の遺産があった場合も、長男はそれを引き継がなければならず、拒否することはできませんでした。

 現在の相続制度では、相続人は家庭裁判所に申請することで、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含めて一切を引き継がない「相続放棄」が認められています。

表3:相続放棄の可否の違い

項目

家督相続

現在の相続制度

相続放棄の可否

原則として認められない。
負の遺産も含めて相続する必要がある。

相続放棄が認められており、負の遺産も引き継がない選択が可能。

手続きの方法

放棄手続きなど必要な手続きはない

家庭裁判所での申立てが必要で、手続きを経て法的に効力を持つ。

2-4.財産の引き継ぎ方

家督相続は、家制度のもとで家督を1人(主に長男)が継承する「単独相続」が原則でした。これに対し、現在の相続制度は個人の権利を重視し、法定相続分に基づく「共有相続」が基本です。また、性別や出生による差別も撤廃され、男女平等の原則が適用されています。このように、相続のあり方は家から個人へと大きく転換しています。

表4:財産の引き継ぎ方の違い

項目

家督相続

現在の相続

相続の基本原則

家制度に基づく「家の存続」を最優先

個人の財産権と遺族の公平な分配

相続人の決定方法

家督を継ぐ「家督相続人」(原則として長男1人)

相続人の範囲は民法で決められていて、配偶者は常に相続人になり、配偶者以外の人は優先順位が決められている

相続できる人数

原則として1人(家督相続人のみ)

複数(全法定相続人で分割)

性別による差

男性優先(女子は基本的に家督相続人になれない)

男女平等(性別に関係なく相続権あり)

嫡出・非嫡出の区別

非嫡出子は家督相続から排除される

嫡出子・非嫡出子の相続分は平等

配偶者の相続権

限定的、家督相続には関与しない場合が多い

法定相続人として相続分を有する

法定相続分

定めなし(家督相続人がすべてを継承)

民法で明確に規定されている

相続の形式

「単独相続」

「共有相続」→分割協議などで分配

相続の目的

家系・家産の維持

個人の財産の公平な承継

3.家督相続が現代に与える影響とは

戦前の旧民法に基づいて運用されていた「家督相続」は、制度としてはすでに廃止されています。しかし、その影響は現在の相続にもさまざまな形で残っており、相続手続きを複雑にする要因やトラブルの原因になることがあります。ここでは、家督相続が現代に及ぼす影響について整理して解説します。

3-1. 登記・手続き面で現在も影響を与える家督相続

家督相続制度が廃止されて久しい現在でも、昭和22年5月2日以前に発生した相続については、旧民法に基づく家督相続として扱われるため、その影響が現代にまで及ぶことがあります。特に、相続登記が未了のまま放置されている不動産については、以下のような問題が生じます。

・過去の家督相続を証明する必要がある
 例えば、昭和20年に戸主(父)が亡くなり、長男が家督を相続して登記せずに不動産を引き継いでいた場合、現代でその不動産を相続するには、まず当時の家督相続を証明し、登記を経た上で現在の相続人へと移転する必要があります。
 さらに、家督相続人もすでに亡くなっていれば、相続関係が複数世代にわたり複雑化します。

・相続人が多数となり手続きが困難になる
 長期間登記がされないままだと、その間に発生した複数の相続により、相続人が増加します。これにより、遺産分割協議の調整が難しくなり、全員の同意を得るのに多大な時間と労力を要します。

・不動産の売却や利用が制限される
 名義が亡くなった戸主のままでは、不動産の売却や贈与、農地転用などの手続きができません。

・令和6年からの相続登記義務化による影響
 2024年(令和6年)からは、相続による不動産取得があった場合、3年以内の登記申請が義務化されました。正当な理由なく登記しない場合、過料の対象となる可能性があるため、旧来の未登記不動産についても早急な対応が求められます。

3-2. 思想・慣習としての家督相続が残るケース

家督相続は法律上すでに廃止されていますが、「家は長男が継ぐもの」という考え方が、地域や家庭の中で今なお根強く残っていることがあります。特に地方の農地や自宅の相続においては、

・長男が土地・建物をすべて相続する
・他の兄弟姉妹は現金や金融資産で調整される

といった方法が当然視されるケースもあります。しかし、現行の相続法では相続人全員に法定相続分の権利があるため、こうした慣習に基づく対応がトラブルの原因になることも少なくありません。

4.家督相続を主張された場合の対処法

現在は制度として廃止されている家督相続ですが、ご家庭によっては家督相続に近い形での相続を希望される方もいます。相続時に家督相続を主張された場合の対処法についてご紹介します。

4-1.遺言書があっても遺留分は保証される

現代の相続制度では、相続人全員に相続権が認められており、遺言書がない場合は民法に基づく法定相続分に従って遺産を分割するのが原則です。しかし、遺言書を作成することで、特定の相続人に希望する形で財産を承継させることも可能です。

ただし、この場合でも一定の法定相続人には「遺留分」が法律で保障されています。遺留分とは、配偶者・子・直系尊属といった一部の法定相続人に認められた、最低限の相続分のことです。

仮に遺言によって遺留分を下回る内容となっていた場合、遺留分を侵害された相続人は、財産を多く取得した相続人(例:長男)に対して、「遺留分侵害額請求」を行うことで、差額に相当する金銭を請求することができます。

4-2.相続人との間で話し合いをする

 現代の相続において、家督相続を主張された場合、相続人全員で話し合う遺産分割協議は非常に重要です。まず、相続人全員で冷静に協議することがポイントとなります。家督的な主張を受け入れるかどうかは、相続人全員の合意が必要であり、特定の相続人に不動産を相続させる場合でも、代償金で公平を保つ方法が考えられます。相手の価値観を頭ごなしに否定するのではなく、現行法の原則に立ちつつ、現実的な落としどころを探る姿勢が円満な解決につながります。

4-3.弁護士へ相談する

 相続人の間で話し合いがまとまらず、トラブルに発展しそうな場合には弁護士に相談することをおすすめします。相続税の申告手続きは被相続人が亡くなったことを知った日から10ヶ月以内という期限があります。遺産分割協議が長引くと申告や納税にも影響が出る可能性があるため、早めの対応が必要です。

5.まとめ

家督相続は、明治31年から昭和22年までの旧民法で制度として定められていた相続のしくみで、長男が家や財産を単独で相続することが原則でした。現在の民法ではこの制度は廃止され、法定相続分に基づく公平な相続が基本となっています。

しかしながら、古い不動産の相続登記が放置されている場合や、家督相続的な価値観が残っていることにより、現代でも相続トラブルが発生するケースがあります。

仮に、現代の相続において家督相続を前提とした主張がなされた場合には、法的にどう扱われるかを正しく理解した上で、相続人同士の冷静な話し合いや専門家への相談を通じて対応することが重要です。相続税の申告期限(原則として被相続人の死亡から10か月以内)もあるため、早めの準備と行動を心がけましょう。

ご不明な点やご相談がございましたら、どうぞお気軽にOAG税理士法人までお問い合わせください。

 

監修者情報
OAG税理士法人 相続チーム 部長奥田 周年

専門分野:相続税、事業承継

(東京税理士会:登録番号83897) 1994年OAG税理士法人に入所。承継相続分野における第一人者として、相続を中心とした税務アドバイスを行うほか、事業承継や相続関連で多数の著書を執筆、監修するなど、幅広く活躍している。

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