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相続回復請求権が使えるケースをイラストで徹底解説!時効と請求方法

「同居の兄が父の遺産を全部相続してしまっていた…」
「今からでも自分の相続権を主張して遺産を分けてもらえるのだろうか」

ご自身の知らない間に相続手続きが進められていることに気づいて、どのように対処したら良いのかお困りかもしれませんね。

本来の相続人が相続権を侵害された場合、引き継げるはずの相続財産を取り戻す権利(相続回復請求権)が認められています

本記事では、相続回復請求権とは何か、相続回復請求権を行使できる人(請求権者)と時効について、具体的な事例から詳しくご説明いたします。

相続回復請求権の請求方法と確実に時効を止める方法もご紹介していますので参考にしていただければと思います。

1.相続回復請求権を行使する2つのケース

相続回復請求権とは、相続の権利を持つ本来の相続人(真正相続人:2章参照)であるにも関わらず、相続権のない人(表見相続人:3-1参照)から相続権を侵害されて、引き継げるはずの財産を取得できなかった場合に、相続財産を取り戻す権利です。相続回復請求権を行使するケースは次の2つです。

①相続の権利を持つ本来の相続人(真正相続人)が相続権のない人(表見相続人)により相続権を侵害されたとき

【事例】お父さまの生前に相続廃除を受けた長男(表見相続人)が、相続権がないのに相続していたケースでは、本来の相続人(真正相続人)であるお母さまと長女が相続回復請求権を行使することができる

図1:本来の相続人が相続権のない人から相続権を侵害されたケース
本来の相続人が相続権のない人から相続権を侵害されたケース

②共同相続人(相続人が複数いる場合の他の相続人)から相続権を侵害されて法定相続分を、あるいは遺言で指定された相続分を引き継げなかったとき

【事例】お父さまが亡くなり、長男が他の相続人の同意なく全財産を相続したとき、長女、次男は相続回復請求権を行使することができる

図2:共同相続人から相続権を侵害されたケース
共同相続人から相続権を侵害されたケース

2.相続回復請求権を行使できる人(真正相続人)

相続の権利を持つ人(真正相続人)は相続回復請求権を行使できます。ご家族が亡くなられて遺言書がない場合は、相続財産は民法の定める法定相続人が相続します。相続権を持つ法定相続人は真正相続人です。

また、遺言書があり包括遺贈(財産割合を指定する遺贈)をされた人(包括受遺者)は、相続人と同一の権利を持つとされていますので真正相続人です。一方、特定遺贈(財産を指定する遺贈)をされた人(特定受遺者)は真正相続人ではないということに注意が必要です。

【相続回復請求権を行使できる人】
①真正相続人(法定相続人)
②包括受遺者(遺言で引き継ぐ財産の割合を指定されて遺贈を受けた人)
③真正相続人から相続した人
④真正相続人から相続分を譲渡された人(譲受人)
⑤遺言執行者
⑥相続財産管理人

※包括受遺者について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
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※相続分の譲渡について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
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3.相続回復請求権の相手方

相続回復請求を請求する相手方は、2つのケースがあります(1章参照)。「表見相続人」と呼ばれる、実際には相続権はないのに相続財産を占有している人と、「共同相続人」であっても、ご自身の相続分を超えて相続財産を取得している人が当てはまります。

つまり、相続権を持っていないにも関わらず、または自身の相続分を超えて相続人の権利を侵害している場合に、相続回復請求権を行使されることになります。

3-1.戸籍上は相続人であるが相続権を持たない人(表見相続人)

表見相続人は、戸籍上は相続人になっていても実際には相続権がない人です。相続欠格により相続権をはく奪された人や、相続人の中で財産を不当に浪費する恐れがあるなどの理由により生前に被相続人(亡くなられた方)から相続廃除された人などが当てはまります。

【表見相続人】
①相続欠格者
②相続廃除された人
③事実と異なる出生届や認知届により子になった人
④無効な縁組で養子になった人
⑤無効な婚姻により配偶者になった人

【事例】
亡くなられたお父さまが養子である長男、長女、次男に1/3ずつ包括遺贈していたが、養子が無効な縁組であったことが分かった場合は、法定相続人である長女と次男は、表見相続人(養子)に対して相続回復請求権を行使できる

図3:表見相続人に対して相続回復請求権を行使できる
表見相続人に対して相続回復請求権を行使できる

※相続欠格について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
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※相続の廃除について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
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3-2.自分の相続分を超えて相続財産を引き継いだ共同相続人

共同相続人が、ご自身の相続分を超えて相続財産を占有管理することにより相続権を持つ相続人(真正相続人)の相続権を侵害するケースです。

注意点として、相続回復請求権の相手方となる共同相続人は、本来の相続人(真正相続人)の相続権を侵害していると知らない(善意・無過失)人に限ります。真正相続人の相続権を侵害していると分かっている共同相続人については、相続回復請求権を行使するのではなく、遺産分割協議により解決されるべきとされています。

理由として、相続回復請求権には時効があるので(5章参照)、時効のない遺産分割協議の方が不当な共同相続人の行為から、より真正相続人を守ることができると考えられているためです。

【事例(1章②のケース)】
お父さまが亡くなられて相続人がお子さん3人の場合、法定相続分は1/3ずつとなります。長男が全財産を相続したとき、法定相続分1/3を超える分(2/3)について、真正相続人(長女・次男)の相続権を侵害していますので、長女・次男は長男に対して相続回復請求権を行使し、ご自身の相続分1/3をそれぞれ請求することができます。

図4:自分の相続分を超えて相続財産を引き継いだ共同相続人に相続回復請求権を行使する
自分の相続分を超えて相続財産を引き継いだ共同相続人に相続回復請求権を行使する

※法定相続分について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
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4.相続回復請求する方法

相続回復請求権を行使する方法に決まりはありません。相手方と直接会って話し合う、電話をする、メールや手紙を出すという方法でも構いませんが、相続回復請求した事実や日時が確実に証拠に残る方法をおススメ致します。

4-1.内容証明郵便を送付

相続回復請求権により相続財産を返還請求する際は、内容証明郵便を送付しましょう。時効(5章参照)前に請求権を行使した証拠になります。

4-2.地方裁判所へ申立て

内容証明郵便を送付しても合意できない場合は、亡くなられた方の住所地を管轄する地方裁判所に申立てをします。家庭裁判所で手続きが進められる遺産分割調停とは異なり、相続回復請求権による請求は民事裁判になります。

訴えが認められた場合、裁判で返還命令が出されます。もし相手方が返還に応じなければ差し押さえをして、強制的な取り立てが行われることもあります。

5.相続回復請求権の時効

相続回復請求権は、相続権の侵害を知ってから5年、あるいは相続権の侵害の有無に関わらず相続開始から20年(除斥期間)経過すると時効(消滅時効)により行使できなくなります。時効までに相続回復請求(4章参照)をする必要があります。

①相続権の侵害を知ってから5年
相続権の侵害を知ってから5年

②相続開始から20年
相続開始から20年

6.まとめ

相続回復請求権は、本来の相続人(真正相続人)が、相続権を持たないのに相続人のようにふるまっている表見相続人に相続権を侵害された場合に、相続財産を取り戻す権利です。

相続回復請求権には時効があり、相続権を侵害されたことを知ってから5年あるいは相続開始から20年が経過すると請求権がなくなります。相続回復請求の方法は決められていませんので、お互いに話し合うことで解決を目指しても構いません。一般的には、時効の成立を阻止するために内容証明郵便を送付するか、それでも合意に至らない場合は訴訟を起こします。

相続回復請求権を行使したいとお考えの方は、弁護士などの専門家にご相談されることをおススメ致します。

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