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相続で限定承認の選択は慎重に!利用すべきケースは限られる

「お父さんに借金があったなんて・・・まったく知らなかった」

葬儀や手続きを慌ただしく終えてようやく落ち着いたと思ったところ、思いもしないお父さまの負債を証明する書面を見つけてしまった。
このような時、驚きとともに「どうやって返済したらよいのだろう」と大きな不安を感じていらっしゃると思います。

「借金以外に残してくれた財産もあるのに、すべての相続財産を放棄するしか方法はないのだろうか?」
「相続財産から借金を返済できないものか」

このようなケースでお悩みの方は、「限定承認」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
限定承認とは、亡くなられた方の財産を引き継ぐ方法の一つです。限定承認を選択したほうが良いかどうかの判断と、手続き方法についてご紹介します。

もっと詳しくきちんと理解した上で検討してみたい、とお考えの方にぜひ本記事を読んで頂ければと思います。

1.限定承認とはプラスの財産以内でマイナス財産を相続する方法

相続財産は、現金や不動産などのプラスの財産の他に、借金などのマイナスの財産も含まれます
限定承認は、亡くなられた方の財産のうちプラスの財産の範囲内で借金などのマイナスの財産を弁済し、プラスの方が多ければその分を引き継ぐ事ができる相続方法です。
そのため、相続財産に負債があった場合でもプラスの財産以上に負債を負う必要がありません。

そのほか相続方法には、プラスとマイナスすべての財産を引き継ぐ「単純承認」とプラスとマイナスすべての財産を放棄する「相続放棄」があります。

図1:限定承認はプラスの範囲内でマイナスを相続する
単純承認と限定承認と相続放棄の正負財産の割合イメージ


2.限定承認の選択は負債内容を確認して慎重に

限定承認を選択したほうが良いケースは、家業や土地など、引き継がなくてはいけない財産がある場合です。
そのうえで、負債などのマイナスの財産が大きすぎる場合や、負債の金額が不透明な場合に限定承認を選択します。

しかし、不透明のまま安易に限定承認を選択すると、まったくプラスの財産が残らなかった場合でも負債の整理だけはしなければならなくなりますので、亡くなられた方の財産はマイナスも含めてすべてよく確認して慎重に判断しましょう。

図2:限定承認を選択すべきケース
マイナスの財産が多い場合または不明確な負債がある場合

2-1限定承認を選択すべきケースは2つ

限定承認はどうしても手放すことができない財産がある方にとっては、負債を最小限に抑えて財産を引き継ぐための最後の選択肢ともいえます。限定承認をすることでメリットが得られる2つのケースをご紹介します。

2-1-1①家業を引き継ぐケース

引き継がなくてはいけない家業があるのに負債がある場合、相続放棄をしてしまうと家業に関わるすべての財産を手放すことになります。
このような状況の場合、単純承認ではなく限定承認をすることで負債を減らして家業を継続できる可能性あります。

また、限定承認が認められた場合は財産の換価手続きが必要です。基本的には競売にかけることになります。しかし、競売にかけてしまうと必ず買い戻せるわけではありませんので、家業を続けるために必要な財産については先買権といって家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を相続人が支払うことによって、優先的に相続財産を取得することができます。

図3:家業を引き継ぐ場合の限定承認の流れ
家業を引き継ぐ場合の限定承認の流れ

2-2-1②自宅など手離なせない財産があるケース

たとえ負債があったとしても、亡くなられた方の自宅にご自身が住んでいる場合には、競売等で奪われてしまうと住む場所を失うことになってしまいます。
このような場合も限定承認することで、家庭裁判所を通じて財産を競売にかける前に先買権を使い評価額を相続人が支払うことによって、優先的に不動産を取得することができます。

図4:手放せない家がある場合の限定承認の流れ
手放せない家がある場合の限定承認の流れ

2-2負債があっても限定承認をしない方が良いケース

負債があるからと言って、限定承認を安易に選ぶことはやめましょう
負債があっても単純承認(負債を含むすべての財産を引き継ぐ)ことで、相続税がかからずに財産を引き継ぐ事ができる場合があります。
負債が不明確なため限定承認を選択したが、プラスの財産自体が多い場合や、受取人が指定された死亡保険金の額が多い場合などが該当します。死亡保険金には相続税の基礎控除額とは別に非課枠もありますが、それ以上の死亡保険金を受け取った場合は相続税の対象となる財産となります。具体的な事例で確認してみましょう。

事例:
相続人3名(配偶者、長男、長女) 
プラスの財産8,000万円(預貯金1,000万円、死亡保険金7,000万円)
マイナスの財産4,000万円

図5:相続財産のイメージ
相続人3人でプラス財産8,000万円、マイナス財産4,000万円の場合
相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)=4,800万円
保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)=1,500万円

【限定承認をした場合】
死亡保険金で負債を弁済する必要はなく、預貯金1,000万円を限度として負債を弁済します。
死亡保険金は全額が相続財産とみなされ、基礎控除額と死亡保険金の非課税枠を引いてもなお残る700万円に対して相続税が課税されます。

図6:限定承認した場合のイメージ
限定承認した場合の基礎控除額と非課税金額と課税対象額を示したイメージ【単純承認をした場合】
プラスの財産8,000万円からマイナスの財産4,000万円を引いた時点で基礎控除額を上回る財産が残らないため、相続税がかかりません

図7:単純承認をした場合のイメージ

単純承認をした場合の基礎控除額と非課税金額を示したイメージ

※相続税の基礎控除について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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※生命保険の非課税枠について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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3.限定承認の4つのデメリット

相続放棄の年間の利用者数は16万件ほどになります。
一方で、限定承認は800~1,000件くらいの利用しかなく利用される件数が非常に少ないのが限定承認の現状です。
ではなぜ、少ないのでしょうか?
次の4つのデメリットが要因であると考えられます。ご自身のケースに該当しないかどうかしっかり確認しましょう。

3-1認められるまで一切相続できない

限定承認をする判断をして、家庭裁判所へ申述するための必要書類を用意し、家庭裁判所へ申し出てから実際に 限定承認が認められるまでには相続が発生してから3か月以上の時間を要します。
認められるまでは、亡くなら れた方の財産は一切扱うことができません
亡くなられた方の相続財産を使って支払いをするなどうっかり使っ てしまうと、その時点で単純承認してしまったとみなされ、限定承認が認められない可能性が高くなります。

※単純承認について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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3-2相続人全員の同意が必要

限定承認は相続人全員の同意が必要です。更に全員で家庭裁判所へ必要書類を提出する必要があります。
その前に、相続人全員で負債をどのように扱っていくのかを話し合う必要があります。

限定承認は、プラスの財産の範囲であっても大きなマイナスの財産を相続することに変わりありません。いくらマイナスの財産を減らすことができても、単純に考えると5,000万円財産を相続して、5,000万円の負債を抱えることになります。
このように負債が5,000万円と明確であっても、その後の返済をしなければならない現実があります。
万が一、負債の返済が滞った場合には、別の相続人が返済義務を負うことになります。

相続人の人数が多くなるほどいろんな意見が出ますので、全員の意見を期限内に調えることが意外に大変な作業となります。 1人でも意見が揃わなかった場合は、限定承認をすることはできません。

3-3限定承認の手続きは煩雑

財産のすべてを引き継ぐ単純承認や、財産のすべてを放棄する相続放棄と比べて限定承認の手続きは複雑です。官報公告手続き、債権者との交渉、負債の支払いと専門家でないと対処が難しいようなお手続きが続くことになります。イラストで手続きが受理されるまでの比較をしています。

図8:限定承認と相続放棄が家庭裁判所に受理されるまでの比較
限定承認と相続放棄が家庭裁判所に受理されるまでの比較
図9:限定承認と相続放棄が家庭裁判所に受理された後の比較
限定承認と相続放棄が家庭裁判所に受理された後の比較

表1:限定承認が認められた後に続くお手続きの一覧

     限定承認後の手続き                                               
①官報公告手続き
②債権者に請求申し出を催促
➂相続財産の管理・換価
⓸債権者への支払い
⑤準確定申告(みなし譲渡所得税がある場合)
⑥残余財産の処理

 

3-4みなし譲渡所得税がかかる可能性がある

限定承認をする際に、相続財産に不動産などがある場合には、みなし譲渡所得税がかかる可能性があります。
限定承認をする場合には、不動産などの財産は相続ではなく、亡くなられた方が購入した当時の時価で相続人に譲渡したとみなします。
よって、不動産が購入当時より値上がりしている場合には、その値上がり分に対して譲渡所得税がかかり、亡くなられた方が納める税金として準確定申告という手続きによって納税することになります。
この税金を「みなし譲渡所得税」といいます。単純承認の場合はまったくかからない税金です。

図10:みなし譲渡所得税が課税される財産例
みなし譲渡所得税が課税される財産例
図11:みなし譲渡所得税がかかるイメージ
みなし譲渡所得税がかかるイメージ

4.承認の手続き方法と必要書類

限定承認を選択することを決めたら、必要書類を揃えて家庭裁判所へ提出します。
提出期限は亡くなられてから3ヶ月以内です。 もし期限までに財産や債務を把握しきれないという場合は、熟慮期間である3ヶ月の期限伸長を裁判所に、別途申し出ることで期間を延長することも可能です。

また、限定承認の手続きに必要な書類は、以下の5種類です。限定承認申述書」「申述人目録」「遺産目録」は裁判所のHPからダウンロードできます。また、「戸籍謄本」は亡くなられた方のものと相続人全員のもの、「住民票」は相続人全員のものが必要です。

<限定承認の必要書類>
・限定承認申述書
・申述人目録
・遺産目録
・戸籍謄本
・住民票

図12:限定承認の期限は3ヶ月
限定承認の期限は3ヶ月

図13:限定承認の必要書類
限定承認の必要書類

 

5.限定承認を検討するなら専門家へご相談を

限定承認は、プラスの財産の範囲とはいえ負債を背負うことになりますので、債権者との交渉や弁済手続き、清算処理などが必要となります。
また、負債の返済を待っている側にしてみると、限定承認をすることで本来貸したはずの財産が戻ってこないことになります。 よって、トラブルも起きやすいことから、専門的な知識を持って対応した方が安心です。

できる限りスムーズにそして穏便に手続きを終えるためにも早めに専門家にご相談されることをお勧めいたします。
相続を専門にしている税理士に相談の上、手続きを一緒に対応してくれる弁護士と一緒に取り組むことをお勧めします。

6.まとめ

限定承認はプラスの財産の範囲ではありますが、負債を背負う相続の方法です。
負債の上限がプラスの範囲と限定される点がメリットとなりますが、通常の相続とは少し異なる考え方もあるため注意して、その内容を含めて限定承認を選ぶかどうか決断が必要です。

たとえば、財産に不動産があれば「みなし譲渡所得税」という税金が課税される可能性があったり、単純承認であれば問題なく適用可能とされた減税制度が利用できないなどの点に注意します。
また、限定承認は申し立ての手続きも複雑で、相続放棄を選択すれば各個人の判断で必要な書類を揃えて家庭裁判所へ提出することができますが、限定承認では相続人全員の同意をとって全員の書類を集めて進めなくてはいけません。

書類を期限内に揃えるだけでも大変なことです。 さらには、負債に関して弁済計画をたて、相続財産を管理し、清算処理をしていくことも必要であり、限定承認が認められたあとも非常に煩雑な手続きが続きますので、労力も時間も要します。

そんな中で、絶対に手放すことができない相続財産があり、限定承認を検討される場合は早めに専門家にご相談いただき、対処されることをお勧めいたします。

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