
土地は相続放棄しても次の管理者が決まるまで「管理義務」は続く
「農業をしながら地方の一軒家に一人で住んでいた父が亡くなった。相続人は姉さんと自分の二人だが、私は東京で家族と生活をして会社員をしているし、姉さんは嫁いで持ち家もあるので、私たちに地方の土地を引き継ぐ意思はない。売れるかどうかも分からない場所の土地だし、相続放棄をしてしまった方がよいかと相談している。」
先祖代々が引き継いできた土地であっても、生活の基盤が昔とは全く異なる現代では、地方の土地を引き継がず、手放したいと考えるケースは非常に多いと思います。立地的にすぐに売却ができそうな土地であれば、悩まず売却して現金で相続することができますが条件的に難しい場所の土地は相続放棄を検討する方も多いと思います。
土地の相続放棄はすぐにできるものなのでしょうか?本記事では、土地の相続放棄について気になる点や注意すべき点をまとめてみましたのでご一読いただければと思います。
Contents
1.土地だけ相続放棄することはできない
「実家の土地や畑の引継ぎ手がいない。遠方すぎて管理もできない。」などの理由から土地を相続することはできないという相続人の方はいらっしゃるでしょう。空き家放置などの社会的な問題も深刻化している中、きちんと相続手続きはしたいが「引き継ぐことはできない」と判断した場合、相続放棄することを選択されると思います。
相続放棄をするということは、初めから相続人ではなかったものとみなされるため、引き継ぐことができない土地だけではなく、亡くなられた方の相続財産すべてを放棄しなければなりません。
不要な財産だけを放棄するということはできません。また、相続人の代表者が相続放棄をすれば終わりではなく、相続人となるすべての方が各々で家庭裁判所において相続放棄の手続きをしなければなりません。
(受取人が指定されている死亡保険金は、受取人固有の財産となり、相続放棄をしても受け取ることができます。)
図1:相続放棄は土地も含むすべての財産を放棄する
※相続放棄について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
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2.相続放棄した土地はどうなるのか?3つの注意点
土地を相続放棄した場合、メリットといえることは、土地の所有者に毎年課せられている固定資産税の支払い義務がなくなり、納税の負担から解放されます。しかし、ご自身だけが放棄すればそれでよいというわけではなく、正しく相続放棄をするための3つの注意点を以下でご確認ください。
2-1.注意①:全員が放棄できるよう次順位の相続人に「相続放棄をきちんと伝える」
相続人には民法で定められた相続順位があります。配偶者は常に相続人であり、第一順位はお子さん、第二順位は祖父母など、第三順位はご兄弟(兄弟姉妹)となります。
たとえば、亡くなられた方のお子さんが土地の相続放棄をすると、祖父母の方々に相続権が移ることになります。注意すべき点は、同一順位の相続人が複数いる場合は、そのうちのお1人だけが相続放棄をしただけでは、次順位の相続人に相続権が移ることはないということです。お子さんが全員、各々で家庭裁判所で相続放棄の手続きをおこない、承認されて初めて次順位の方に相続権が移ることになります。
次順位の方に相続権が移った場合、放棄をした方がきちんと相続放棄の事実を次の方に伝えなければ、その方は知らないうちに土地の相続権を引き継いでいることになります。家庭裁判所から次順位の方にお知らせが届くことはありません。相続放棄をするときは、相続人となる方全員に相続放棄したことを必ず伝えましょう。
図2:同順位の相続人が全員相続放棄すると次順位へ相続権は移っていく
※相続順位について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
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2-2.注意②:土地を引き継ぐ方が決まるまで管理義務責任は残る
相続放棄をすれば、土地に課される毎年の固定資産税の納付義務や、土地の維持管理費などの負担から解放されることになるのですが、注意しておかなければならない重要な点があります。それは、その土地を次に引き継ぐ方が決まるまでは土地の管理義務責任が相続放棄をしても残っているということです。
放棄した土地で木が倒れて通行人がケガをしてしまう、ゴミなどが放置され悪臭などの問題で近隣から苦情が出てしまうなどのトラブルが生じた場合には、損害賠償請求などに対応する義務が残っているということです。
図3:放棄をしても管理義務責任は残る
2-3.注意③:相続人全員が放棄したら「相続財産管理人」の選任が必要
相続人になり得る方が全員、土地の相続放棄をした場合、最終段階として、相続人のうちの代表者の方が家庭裁判所へ「相続財産管理人の選任申し立て」をおこない、相続財産管理人へ管理義務を引き継いだ時点で、管理義務責任を終えることができます。
法的には相続財産管理人の選任申立ての義務はありませんが、民法には相続放棄をした財産であっても、その財産に対する管理が始まるまでは「相続人に管理責任がある」という趣旨の規定があるため、損害賠償などの万が一のリスクに備えて、選任手続きまでされておく方が将来的には安心といえます。
ただ難点といえることは、相続財産管理人には報酬が発生するということです。相続財産管理人によって土地の処分が完了するまで、その支払いは続くことになります。金銭の負担をどうするかも含め、予め話し合って決めておく必要があるでしょう。しかしながら、土地の相続に関しては、相続登記が令和24年4月1日から義務化され、法律が厳しくなっていきます。義務化は、施行前に相続した土地も対象となり、未登記のまま放置していれば、過料の対象にもなります。
相続財産管理人は、家庭裁判所の許可があれば、管理対象の土地を売却することも可能ですし、万が一売却できなかった場合、最終的には国が受け入れることになります。今後の法的な動向もふまえると、正当な手続きを踏んで国庫に帰属することが得策といえるでしょう。
図4:相続放棄した土地が国庫に引き継がれるまで
※相続放棄した不動産の管理責任について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
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3.相続放棄は3ヶ月以内の手続きが必要
繰り返しの説明となりますが、相続放棄は、亡くなられてから3ヶ月以内に相続人毎に家庭裁判所に申し立てをする必要があります。
相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったとみなされ、土地や借金だけではなく、預金などのプラスの財産も一切引き継ぐことができなくなります。管轄の家庭裁判所へ相続放棄の申述の申立てをすると「受理通知書」に加えて「受理証明書」を発行されます。これにより、相続放棄の申述を裁判所が受理したことが証明されます。
図5:相続放棄手続きの5つのステップ
3-1.相続放棄の必要書類一覧
相続放棄の申述手続きに必要となる書類は、相続放棄をする相続人全員に共通する書類と、亡くなられた方との関係により別途必要となる書類があります。必要書類に不備がある場合は、家庭裁判所より連絡がはいります。
図6:相続放棄をする方全員共通の必要書類
※費用は該当の役所により異なる場合がありますので事前に電話などでご確認ください。
※相続放棄の手続きについて詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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3-2.先祖の土地は遡って手続きしなければならない
お父さまの土地だと思っていたものが、実は未登記のままで、先代名義のままだったというケースは、地方にある土地の場合、実は珍しいことではありません。先代名義の土地を相続放棄する場合には、遡って相続手続きからおこなう必要があります。先代名義のままでは相続放棄をすることはできず、このままではいつまでも不安は解消されません。先代の相続人方々と協力して相続登記をおこなったのち、今回の相続人の方々が順に相続放棄をおこなっていく流れとなります。
このように先代の方が名義変更(相続登記)をされていない不動産が残っていた場合には、その後の相続関係が複雑化してしまい、いくら手放すことを考えても、相続放棄の手続きに至るまでが煩雑すぎて断念せざるおえない場合があります。しかし、このまま手続きせずに放置してしまうことは、今度はご自身のお子さんやお孫さんの代にまで迷惑をかけてしまう恐れがあります。この場合は、専門家の力を借りて早めに解決されることを是非ともお勧めいたします。
4.土地の相続放棄ができなくなる主なケース
下記の内容に該当する場合、原則として相続放棄ができなくなりますので注意してください。ただし、やむを得ない特別なケースは、相続放棄を認められる場合がありますので、不安な場合は速やかに相続放棄に詳しい専門家に相談されるとよいでしょう。
<相続放棄ができなくなるケース>
①相続放棄の期限である3ヶ月を過ぎてしまった
②相続財産の一部を使ってしまった
➂相続財産の一部を売却(処分)してしまった
5.相続放棄をせずに土地を手放す方法
相続放棄をせずに土地を手放す方法としては、いったん土地を引き継いだ(相続登記をおこなう)後に、売却や寄附をするという方法です。地方の畑や田んぼなどの土地は、近隣の農家の方などが引き受けてくれるケースが意外にあるものです。また、自治体に寄附が可能かどうかも相談されてみるとよいでしょう。
6.まとめ
相続放棄とは、亡くなられた方のプラスとマイナスを含むすべて財産を放棄することであり、土地だけを放棄するということはできません。土地の相続放棄をすると、土地にかかる固定資産税の納税や維持管理費の負担義務がなくなりますが、次の相続人(その土地を管理する人)が決まるまで、管理義務責任から逃れることはできません。
相続人全員が放棄したら、代表者の方が「相続財産管理人の選任の申し立て」を家庭裁判所へおこないましょう。相続財産管理人には報酬が発生し、土地の処分が完全に終わるまでは支払い義務が生じますが、相続財産管理人へ管理を引き継ぐことで、管理義務責任からは完全に解放されることになります。
相続放棄は3ヶ月以内と期限も短く、また、相続財産管理人の選任手続きなどは複雑で時間も要しますが、不動産の相続登記の義務化が決まり、様々な法的動向をふまえると、正当な手続きで問題を早めに解決されておく方が将来的には得策といえます。手続きに関するご不明な点、ご心配なことなどございましたら、専門家の無料相談などをまずは試され、話を聞いてみることから始められてはいかがでしょうか。