「相続手続きの費用は誰が払う?」その疑問に答える!負担方法と費用の種類を解説

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相続が発生すると、手続きに必要な書類の取得や名義変更、不動産の登記など、思った以上にさまざまな費用がかかります。特に初めて相続を経験する場合、「それらの費用は誰が払うのか」「兄弟でどう分担すればよいのか」といった漠然とした不安を抱える方も少なくありません。

亡くなった方の遺産が実家と少額の預貯金だけの場合でも、手続きに伴う費用は避けられず、事前に全体像を把握しておくことが重要です。

本記事では、相続手続きで発生する費用の種類と、負担方法の基本をわかりやすく解説します。どの費用を誰が支払うのか、具体的な事例を交えて確認することで、手続きをスムーズに進めるための参考にしてください。

1.相続手続きにかかる費用は誰が払ってもよい

相続手続きにかかる費用は、法律で「誰が払わなければならない」と決まっているわけではありません。
基本的には、相続人同士で話し合って決めることができます。亡くなった方の遺産が実家や少額の預貯金だけの場合でも、手続きに伴う費用は避けられません。まずは、どのような費用が発生するのかを整理することが大切です。

2.相続手続きにかかる主な費用

相続手続きでは、さまざまな費用が発生します。大きく分けると「書類取得」「不動産関連」「専門家への依頼」の3種類です。

2-1.書類取得にかかる費用

相続手続きの最初にかかるのが、各種証明書の取得費用です。金額自体は大きくありませんが、手続きを進める上で必ず発生します。

図1:書類取得は必ず必要

表1:主な書類取得にかかる費用

費用の種類

内容

目安(1通あたり)

戸籍謄本・除籍謄本

相続人確定のために必要となる、亡くなった方や相続人全員の戸籍の証明書。

450円~750円

住民票・除票

亡くなった方の最後の住所地の証明書。

200円~300円

固定資産評価証明書

不動産(実家など)の価値を確認し、相続登記や相続税申告の基礎とする。

300円前後

2-2不動産関連にかかる費用

亡くなった方の財産に家や土地がある場合、登記や名義変更に必要がかかります。

表2:不動産関連にかかる費用

費用の種類

内容

目安

登録免許税

不動産の名義を故人から相続人へ変更する際に、必ず国に納める税金。

不動産の固定資産評価額の0.4%

司法書士報酬

登録免許税の納付や、登記申請手続きを司法書士に依頼した場合の報酬。

5~10万円程度(案件により変動)

2-3.専門家への依頼にかかる費用

手続きの煩雑さや専門性から、弁護士、司法書士、税理士などの専門家に依頼する場合に発生する費用です。費用は依頼する専門家の種類や手続きの内容によって異なります。事前に見積もりを取ることが重要です。

表3:専門家への依頼にかかる費用

専門家

依頼する主な内容

目安

弁護士

遺産分割の交渉や調停、相続放棄の手続きなど

内容や事案の複雑さにより大きく異なる

司法書士

不動産の相続登記、預貯金・株式の名義変更など

5万円〜10万円
(手続き内容により変動)

税理士

相続税の申告が必要な場合の書類作成、税額計算など

遺産総額の0.5%~1%程度

3.費用の負担方法は主に2種類

費用の支払い方法は大きく分けて2通りです。

3-1.相続財産から支払う

最も一般的なのは、亡くなった方の財産(現金預金)から支払う方法です。相続人全員で「遺産からこの費用を支払う」と合意しておけば、個別の負担を気にせず手続きを進められます。

メリット: 公平性が保たれやすく、個々の相続人の持ち出しが不要。 
注意点: 預貯金を引き出すためには、相続人全員の同意や手続きが必要になることがあります。

3-2.相続人全員で支払う

預貯金が少ない、財産が不動産しかない場合、すべての財産を売却してから精算したい場合など、相続財産からすぐに支払えない場合に用いられます。

この場合、相続人全員が、法定相続分(民法で定められた相続の割合)や遺産分割協議で決めた割合に応じて、費用を持ち寄って支払うことになります。

メリット: 費用をすぐに工面できる。注意点: 費用負担の割合やタイミングについて、兄弟間での十分な話し合いと合意が必須

図2:「法定相続分」の割合

4.費用負担に関してよくある質問

相続手続きの費用負担に関して、ご兄弟の間で特に疑問に上がりやすい2つの質問とその回答をまとめました。

4-1.相続財産が少ない場合の対処法

亡くなった方の遺産がわずかで、預貯金だけでは手続き費用を賄いきれない場合があります。このような場合は、

・相続人全員で費用を一旦立て替える(例:法定相続分で按分して持ち寄る)
・最終的に実家を売却する
・遺産を一人で受け取る場合、他の相続人に渡すお金(代償金)を支払う際に、前もって立て替えた費用を清算する

いずれの場合も事前に「この費用の分担はこうする」という合意書のようなものを作成しておくと安心です。

4-2.相続税の申告費用は誰が支払うか

相続税は、遺産を受け取った相続人が、自分の取得分に応じて納める税金です。そのため、相続税の申告を税理士に依頼した場合の報酬は、基本的にその相続税を納める相続人が負担します。

一方で、遺産分割協議書の作成など、相続人全員に関わる手続きにかかる費用は、遺産から支払うか、相続人全員で分担することが一般的です。事前に誰がどの費用を負担するかを話し合っておくと安心です。

5.まとめ

相続手続きでは、書類取得や名義変更、不動産登記など、さまざまな費用が発生します。
費用を誰が支払うかは法律で決まっておらず、相続人同士で話し合って決めることが基本です。
費用の種類は大きく分けて、「書類取得費」「不動産関連費用」「専門家への依頼費用」の3つがあります。
支払い方法は、遺産から支払う方法と相続人全員で分担する方法の2つが一般的です。
遺産が少ない場合や現金がすぐに用意できない場合は、相続人で立て替えたり、代償金で精算したりする方法もあります。
相続税の申告費用も、原則として自分の取得分に応じて負担しますが、全員に関わる手続き費用は分担することが多いです。
事前に費用の種類や負担方法を確認し、相続人全員で話し合っておくことで、手続きをスムーズに進めることができます。

監修者情報
OAG税理士法人 相続チーム 部長奥田 周年

専門分野:相続税、事業承継

(東京税理士会:登録番号83897) 1994年OAG税理士法人に入所。承継相続分野における第一人者として、相続を中心とした税務アドバイスを行うほか、事業承継や相続関連で多数の著書を執筆、監修するなど、幅広く活躍している。