相続権がない!内縁の妻に財産を残すために知っておくべき3つの方法

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「内縁の夫にもしものことがあったら、2人で築いてきた財産を相続できるのかしら…。」
内縁という形で夫婦関係を結んでいる方は、長年連れ添ってきた内縁の夫が亡くなられた後の生活に、不安を感じていらっしゃるかもしれません。

結婚という形をとらず、事実上の夫婦として暮らす「内縁関係」。最近では、婚姻届を出さずにパートナーと生活を共にする「事実婚」というスタイルも広がっています。両者はよく似ていますが、厳密には少し違いがあります。内縁関係は、法律上の婚姻届は出していないものの、夫婦としての実態がある関係を指します。一方、事実婚は、制度としての結婚を選ばず、共同生活を築いているカップル全般を指す、より広い概念です。

しかし、どちらの場合も法律上の夫婦ではないため、内縁の妻(夫)には相続権が認められていません。そのため、何の準備もないままパートナーが亡くなると、財産を一切受け取れない可能性があります。

この記事では、内縁の妻(夫)に財産を引き継がせるための方法や活用できる制度、トラブルを防ぐためのポイントをわかりやすく解説します。大切な人を守るための相続対策として、ぜひご一読ください。

※以下、本記事では便宜上『内縁の妻』と記載していますが、内縁の夫にも同様に当てはまります。

1.内縁の妻には相続権がない

内縁の妻には相続権がありません

遺産相続の対象となる「法定相続人」とその順位は、民法によって定められています。内縁の妻はこの法定相続人には含まれないため、内縁の夫のご家族が健在であれば、遺産を相続することはできません。また、内縁の夫が購入した自宅に一緒に住んでいた場合でも、法定相続人から明け渡しを求められると、住まいを失う可能性があります。

ただし、このようなケースでは、内縁の妻が居住を継続できるよう、裁判所が一定の保護を認める傾向があります(※居住権や使用貸借契約の有無などが考慮されます)。

2.内縁の妻に財産を引き継がせる3つの方法

内縁の妻には相続権がありませんが、財産を引き継ぐ方法はあります。なかでも、確実に財産を引き継ぎたい場合には「生前贈与」がおすすめです。また、遺言書を作成しておく方法も有効な手段です。これらは、いずれも生前に行う対策となります。

この章では、内縁の妻が財産を引き継ぐことができる3つの方法について解説します。

図1:内縁の妻に相続権は無いが他に財産を受け取る方法がある

 

2-1.方法①生前贈与で財産を渡す

内縁の妻に財産を渡す方法のひとつに、「生前贈与」があります。
生前贈与であれば、内縁の妻に対しても、現金・不動産・株式など、さまざまな財産を自由に贈与することが可能です。
贈与税には年間110万円までの基礎控除があるため、この範囲内であれば贈与税はかかりません。
なお、生前贈与は、贈与する側(贈与者)と受け取る側(受贈者)の双方の合意により成立する契約ですが、後々のトラブルを防ぐためにも、贈与契約書を作成しておくことをおすすめします。
また、内縁の夫に法定相続人がいる場合は、「遺留分」への配慮も必要です。
遺留分とは、一定の法定相続人に最低限保証された相続分のことを指し、生前贈与が遺留分を侵害していると、後に「遺留分侵害額請求」がなされる可能性もあります。

<生前贈与の手続き>
1. 生前贈与契約書の作成
贈与する財産の内容や条件、確定日付を明記した契約書を作成し、贈与者と受贈者の署名・押印を行います。

2. 贈与の実行
契約が成立したら、実際に財産を受贈者に渡します。不動産や株式などの場合は、名義変更の手続きも必要です。

3. 贈与税の申告
贈与額が年間110万円を超える場合は、翌年2月1日から3月15日までの間に贈与税の申告と納税が必要になります。

2-2.方法②遺言書を作成して遺贈する

「遺贈」とは、遺言によって無償で財産を譲ることをいいます。
相続人だけでなく、相続人以外の方にも財産を渡すことができるのが特徴です。
そのため、内縁の妻に財産を遺贈したい場合は、遺言書の作成が必須となります。

遺言書には、遺贈する財産の内容を具体的に明記し、あわせて内縁の妻の氏名や生年月日など、特定できる情報を記載することが重要です。

なお、遺贈の場合も生前贈与と同様に、内縁の夫に法定相続人がいる場合は「遺留分」への配慮が必要となります。
遺留分とは、法定相続人に最低限保障された取り分であり、これを侵害すると「遺留分侵害額請求」が行われる可能性があります。

<遺贈の手続き>
1. 遺言書の作成
遺言書には、「内縁の妻〇〇(氏名・生年月日)に○○(財産内容)を遺贈する」と明記します。
書類の不備や紛失の心配がない公正証書遺言がおすすめです。

2. 必要書類の準備

遺贈を受ける際には、内縁の妻であることを証明できる書類(住民票や同居の事実を示す書類など)が必要です。

図2:遺贈ができるように遺言書を作成しておく

2-3.方法➂特別縁故者として財産を受け取る

特別縁故者とは、法定相続人がいない場合に、亡くなった方と特別な関係にあった人が財産を受け取れる制度です。内縁の妻も、一定の条件を満たせば特別縁故者として認められる可能性があります。

ただし、家庭裁判所への申立てが必要で、認められたとしても配偶者控除などは使えず、相続税が2割加算される点には注意が必要です。

<特別縁故者の主な要件>
・生計を共にしていた
・療養看護に努めた
・その他、特別な事情があった など

特別縁故者として財産の分与を受けたいと考える場合は、まず亡くなった方の財産整理や債務の清算、法定相続人がいないことの確認を行い、それでも財産が残る場合に申立てが可能です。

また、たとえ特別な関係があったとしても、家庭裁判所に申立てをしなければ財産を受け取ることはできません。申立て期限は、相続人の不存在が確定してから3ヶ月以内であり、期限を過ぎると認められないため、早めの対応が大切です。特別縁故者として認められるための手続きは、複雑で時間がかかることがありますので、専門家(弁護士など)に相談することをおすすめします。

図3:特別縁故者の財産分与の手続き

3. 内縁関係でもできる契約

内縁関係においても可能な契約や権利があります。特に賃借権の取得と遺族年金の受給についてご紹介します。

3-1.賃借権の取得

内縁の妻の賃借権とは、内縁の夫と一緒に暮らしていた賃貸住宅にそのまま住み続けるための権利のことです。
内縁の夫が亡くなった場合でも、相続人がいない場合は、そのまま賃借権(住む権利)を引き継ぐことができます。また、相続人がいる場合でも一定の条件を満たしていれば、その住まいを引き継いで住み続けられることがあります。
ただし、証明書類をそろえる等、手続きが必要なケースもあるため、早めに専門家(弁護士など)に相談するのがおすすめです。

<内縁の妻の賃借権承継条件>
・居住用の借家である
・賃借人に相続人がいない
・内縁の妻が賃借人(内縁の夫)と同居していた

3-2.遺族年金の受給

遺族年金とは、ご家族が亡くなられた際に、その遺族に支給される年金のことです。内縁の妻も、条件を満たせば遺族年金を受け取れる場合があります。ただし、こちらも一定の要件を満たすことが必要です。

<内縁の妻の遺族年金受給要件>
・生計を共にしていたことの証明
・事実婚関係の証明(共同生活の実態や、婚姻の意思があったことを示す証拠など)
・戸籍上の配偶者がいた場合、関係が既に実質的に終わっていることを示す(別居期間や経済的な依存関係の有無など)

4.内縁の妻が遺族年金を受け取る方法

内縁の妻が、3-2章にあるような要件を満たす場合、遺族年金を受け取ることができます。その場合、必要書類を用意し、申請の手続きが必要です。

内縁の妻が内縁の夫の戸籍謄本を取得することはできません。必要書類の入手が困難な場合には専門家(弁護士など)に相談されることをおすすめします。

<遺族年金の請求必要書類>

必要書類 備考
死亡診断書のコピー 被保険者の死亡を証明する書類
戸籍謄本・抄本 請求者と故人の関係を証明するための書類
住民票の除票 請求者と故人の関係を証明するための書類
請求者の住民票 請求者の住所地を示す書類
所得証明書 請求者の収入を証明する書類(源泉徴収票や課税証明書など)
年金手帳や年金証書 故人の年金に関する書類
通帳 請求者名義の通帳
生計同一等申立書 日本年金機構のウェブサイトからダウンロード可能

<申請手続きの流れ>
1.必要書類の収集: 上記の書類を準備します。
2.年金事務所での相談: 書類を持参し、年金事務所で受給資格の確認を行います。
3.申請書の提出: 必要書類を添えて、遺族年金の請求を行います。

5.内縁の妻への相続対策を成功させるポイント

内縁の妻への相続対策を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。

5-1.親族とのトラブルを防ぐ対策

内縁の夫の親族とのトラブルを防ぐ対策を今から行っておくことよいでしょう。具体的な対策をいくつかご紹介します。

・家族会議の実施
内縁の妻も含めて、相続について夫の親族と話し合っておくことで、誤解やトラブルを未然に防ぐことができます。
特に、他の親族との関係を良好に保つには、早めにオープンな話し合いをしておくことが大切です。

・財産目録の作成
どのような財産があるかをあらかじめリストにして明確にしておくことで、相続のときに「知らなかった」「不公平だ」といった不満を防ぐことができます。

・遺言書の内容を周知
作成した遺言書の内容を、内縁の妻以外の信頼できる家族や専門家に伝えておくと安心です。事前に内容を共有することで、相続時に「こんな遺言書は知らなかった」といったトラブルを避けることができます。また、法的に有効な形で遺言書を保管することが重要です。公正証書遺言を利用することで、形式不備で無効になるリスクも減らすことができます。

5-2.専門家(税理士・弁護士)への相談

相続には、法律や税金の知識が必要な場面が多くあります。弁護士や税理士などの専門家に相談することで、適切な対策をとることができます。
内縁の妻を守るための手続きや書類の作成も、相続に強いプロのサポートがあれば安心してすすめられます。

・税理士への相談
相続税に関するアドバイスや生前贈与の計画については、相続専門の税理士に相談することが重要です。相続専門の税理士は、相続税の計算や節税対策に精通しており、適切なアドバイスを提供してくれます。

・弁護士への相談
相続に関する法律的な問題やトラブルが発生した場合には、弁護士に相談することが必要です。特に遺言書の作成や相続人間の争いが予想される場合、弁護士の専門的な知識が役立ちます。

6.まとめ

内縁関係にあるパートナーが亡くなったとき、法律上の「相続人」ではない内縁の妻は、そのままでは財産を受け取ることができません。長年連れ添った大切な人の遺産を引き継ぐには、生前贈与や遺言書の作成といった事前の対策が欠かせません。

また、法定相続人がいない場合には「特別縁故者」としての申立ても可能ですが、手続きが煩雑で時間もかかるため、早めの準備が重要です。さらに、住まいの確保や遺族年金の受給など、相続以外の生活基盤を守る制度についても理解しておくことが、安心した暮らしにつながります。

監修者情報
OAG税理士法人 相続チーム 部長奥田 周年

専門分野:相続税、事業承継

(東京税理士会:登録番号83897) 1994年OAG税理士法人に入所。承継相続分野における第一人者として、相続を中心とした税務アドバイスを行うほか、事業承継や相続関連で多数の著書を執筆、監修するなど、幅広く活躍している。

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