被相続人と相続人の違いは?亡くなられた方を基準にした相続人の関係

  • 相続手続き

相続が発生すると、多くの方が耳にするのが「被相続人」という言葉です。法律上の用語ですが、簡単に言えば「亡くなった方」、すなわち財産や権利・義務を遺す人を指します。相続手続きを進めるうえで、この被相続人が誰なのかを正しく理解することは、最初の大切なステップです。

この記事では、「被相続人」と「相続人」の違いをはじめ、相続順位や法定相続分などの基本ルールをやさしく解説します。初めての相続で不安を感じている方や、専門用語の意味を知りたい方に向けて、遺言や廃除といった被相続人の意思を尊重する制度まで取り上げます。読み終える頃には、相続全体の流れが見渡せ、スムーズな手続きの道筋が描けるはずです。

1.被相続人とは?法律上の定義と意味

被相続人(ひそうぞくにん)とは、相続が発生した際に、財産や権利義務を遺して亡くなった人を指します。

日本の民法では、「相続は、死亡によって開始する。」(民法第882.条)と定められており、この「死亡した人」が被相続人です。

被相続人の財産には、プラスの財産(不動産や預貯金など)だけでなく、マイナスの財産(借金や未払い金など)も含まれます。これらは法律の規定に基づいて、相続人に包括的に承継されます。つまり、被相続人とは「財産を遺す側の人」を意味します。

2.相続人とは財産を引き継ぐ人

「相続人」とは、亡くなった方が遺した財産を引き継ぐ人のことです。

相続人は民法で定められており、これを法定相続人と呼びます。法定相続人となるのは、配偶者、子(前妻との子や認知した子も含む)、父母などの直系尊属、兄弟姉妹です。相続人は法律で自動的に決まるため、自分たちの話し合いで自由に変えることはできません。

一方で、亡くなった方が遺言書を残していた場合、その意思が尊重されます。遺言で「特定の人に財産を譲る」と指定されていれば、その人が財産を受け取ります。この場合、指定された人が法定相続人でない第三者であっても「受遺者」として財産を承継することが可能です。

図1:相続人とは財産を引き継ぐ人
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3.相続人は相続順位で決まる

相続人は、法律で定められたルールに基づいて決定していきます。
具体的に紹介します。

3-1. 相続順位は被相続人を基準にして決まる

相続人は、法律で定められたルールに基づいて決まります。

ご家族が亡くなった場合、相続手続きの第一歩として、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍一式を取り寄せ、すべての相続人を確認します。そのうえで、相続順位の考え方に従って今回の相続における「相続人の確定」を行います。

相続順位を理解するうえで押さえておきたいポイントは次の3つです。

①配偶者は常に相続人です。ただし、法律上の婚姻関係にない内縁の妻や夫は相続人になりません。

②配偶者以外の親族は、すべてが相続人となるわけではなく、法律で定められた順位に従って相続人が決まります。

③相続順位は上の順位が優先されます。つまり、第1順位の相続人がいる場合、第2順位以降の人は相続人にはなりません。

※相続順位は第3順位までしかなく、第4順位は存在しません。

図2:相続順位
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表1:相続順位

相続順位

対象範囲

補足

常に相続人
(順位関係なし)

配偶者

・法律上、婚姻関係にある配偶者は常に相続人となる
・内縁や事実婚の配偶者は相続人になれない

第1順位

子・孫・ひ孫
(直系卑属)

・子がご健在であれば子が相続人となる
・子が亡くなった場合はその子である孫が相続人となる
・孫が亡くなった場合はその子であるひ孫が相続人となる

第2順位

父母・祖父母
(直系尊属)

・第一順位の子や孫がいない場合に相続人となる
・父母がご健在であれば相続人となる
・父母がともに亡くなった場合は祖父母が相続人となる
・父母のどちらかがご健在の場合は、その一人が相続人となる(祖父母には相続権が回らない)

第3順位

兄弟姉妹
(傍系血族)

・第1順位の子や孫がいない場合、かつ、第2順位の父母や祖父母がいない場合に相続人となる
・兄弟姉妹がご健在であれば相続人となる
・兄弟姉妹が亡くなった場合は、甥、姪が相続人となる
・甥、姪が亡くなった場合はその子には引き継がない

相続人のいない場合

なし

・国庫に帰属する

4.相続順位の具体例

家族の構成が同じでも、誰が亡くなったかによってご自身の相続順位は変わります。

これは、被相続人(亡くなった方)から見た順位で判断するためであり、ご自身が第一順位となる場合もあれば、第三順位となる場合もあります。

・被相続人の配偶者は必ず相続人となります。
・被相続人に子がいれば、子は第一順位として相続人となります。
※子がすでに亡くなっていて、その子(=孫)がいれば、孫が第一順位として相続人になります(代襲相続)。
・子がいない場合は、被相続人の両親が第二順位として相続人となります。
・被相続人に子も両親もいない場合には、被相続人の兄弟が第三順位として相続人となります。

図4:相続順位の図
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5.相続人が引き継ぐ割合は「法定相続分」で決まる

被相続人の財産は、相続人が引き継ぐ割合に応じて分配されます。相続のルールには遺言の有無や民法で定められた法定相続分が関係しており、誰がどれだけ相続できるかは被相続人の状況によって決まります。

5-1.被相続人が遺言書を残している場合

被相続人が生前に遺言書を作成していれば、原則としてその内容に従って財産が分配されます。遺言書は、被相続人の意思を尊重するための重要な手段であり、相続人は基本的にその内容に従うことになります。法律で定められた法定相続人や、法定相続分(相続財産を分ける割合)よりも、遺言に記載された内容が優先されます。つまり、遺言に書かれた通りに財産を相続することになるのです。

ただし、被相続人が特定の相続人だけに多く財産を渡すなど偏った分配を行った場合、ほかの相続人が受け取る最低限の権利である「遺留分」が侵害されることがあります。遺留分が侵害されている場合、相続人は不足分を請求することができるため、遺言の内容によって相続人の権利がどう影響を受けるかを確認しておくことが大切です。

5-2.被相続人が遺言書を残していない場合

被相続人が遺言書を残していない場合や、一部の財産に遺言がない場合には、相続人全員で話し合い(遺産分割協議)により財産の分配方法を決めます。

法定相続分はあくまで分配の目安として用いられることが多く、自動的に分配が決まるわけではありません。法定相続分を基準に話し合いを行うケースもありますが、最終的には相続人全員の合意が必要です。

図5:法定相続分の割合

表2:法定相続分の表
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6.相続において被相続人の意思を実行する方法

相続される財産は、被相続人が生前に築き上げてきた大切なものです。そのため、相続の手続きにおいて重視されるのが被相続人の意思です。具体的に、どのような場面で被相続人の意思が尊重されるのかを見ていきましょう。

6-1.遺言で財産の分け方を指定できる

被相続人は遺言書を作成することで、自分の財産を誰に、どのような割合で渡すかを指定できます。

遺言は法的効力があり、相続人は原則としてその内容に従う必要があります。遺言により、法定相続分とは異なる分配を実現することも可能です。ただし、前章で触れた「遺留分」に注意が必要で、遺留分を侵害している場合は相続人が請求できることがあります。

6-2.相続人の資格を奪う「廃除」という制度

被相続人は特定の相続人に対して、家庭裁判所の手続きを経ることで相続権を失わせることができます。これを「廃除」といいます。対象となるのは、被相続人に対して虐待や重大な非行があった相続人です。廃除が認められると、その相続人は最初から相続人ではなかった扱いになり、財産を引き継ぐことはできなくなります。

6-3.相続人が不法行為をした場合の「欠格事由」

被相続人に対して犯罪や不法行為を行った相続人は、「欠格事由」により相続権を失います。例えば、被相続人を殺害した場合や重大な詐欺行為を行った場合が該当します。欠格事由に該当すると、その相続人は最初から相続人ではないものとして扱われ、財産を引き継ぐことはできなくなります。

7.まとめ

被相続人とは、亡くなった方であり、財産や権利・義務を遺す人を指します。誰が相続人になるか、どの割合で財産を承継するかは、この被相続人を基準に民法上のルールによって決まります。

被相続人が遺言書を残していれば、その意思が優先されますが、相続人には最低限の権利である遺留分が保障されています。また、虐待などの事情がある場合には廃除や欠格事由によって相続権が制限されることもあります。

つまり、相続の仕組みを理解するうえで「被相続人とは誰か」を正しく把握することは不可欠です。被相続人を起点に相続人や相続分が決まっていく仕組みを押さえることで、相続全体の流れを見通しやすくなり、円滑な手続きやトラブル回避につながります。相続において、ご不明な点やご相談事がありましたらお気軽にOAG税理士法人へご相談ください。

監修者情報
OAG税理士法人 相続チーム 部長奥田 周年

専門分野:相続税、事業承継

(東京税理士会:登録番号83897) 1994年OAG税理士法人に入所。承継相続分野における第一人者として、相続を中心とした税務アドバイスを行うほか、事業承継や相続関連で多数の著書を執筆、監修するなど、幅広く活躍している。