
相続税は未分割でも申告必要!未分割で起こる4つのリスクと対処策
「相続税の申告期限は10ヶ月なのに、話し合いがまとまらないから間に合いそうにない。未分割でも相続税の申告と納税は必要なんだろうか。期限を延長したりできないかなぁ。」
・お父さまが亡くなられた際に残された財産の大半が不動産
・相続人同士のお住まいが遠方で、なかなか会えない
・相続人同士が疎遠な関係性
このような場合になかなか遺産分割協議が進まず、相続税の申告期限である10ヶ月のタイムリミットまでにまとまりません。
分割内容がまとまっていないと相続税の申告書が作成できませんし、期限に間に合わないとペナルティの税金が発生してしまいます。相続税の申告期限は、原則、延長されることはありません。
本記事では、相続税の申告期限までに分割ができず未分割の状態での相続税の申告をしなければならない場合のリスクや手続きについてご説明します。
Contents
1.相続税は未分割でも10ヶ月以内に申告と納税が必要
相続税は、相続発生の翌日から10ヶ月以内に申告と納税をしなければなりません。
遺言書が残されていない場合は、相続税の申告と納税をするために相続人全員で遺産分割協議を行い、「誰がどの財産を相続するのか」を決めて全員が同意する必要があります。
このような遺産分割協議が調っていない状態を「未分割」といいます。
「分け方が決まってないのだから申告できない!」と思われがちですが、「未分割」が理由では相続税の期限を延長してもらうことはできません。
そのまま無申告でいると、最悪の場合には脱税を試みたと判断され、高額なペナルティを課せられる可能性もあります。その他、申告期限を守らない場合には軽減特例を使えないなど、相続人の皆さんにとって不利な状況になります。
そうならないためには、たとえ未分割であっても申告をする必要があります。
図1:未分割でも10ヶ月以内に申告と納税が必要なイメージ
2.未分割のまま相続税の申告をする4つのリスク
本来は相続税の申告期限までに遺産分割協議を調え、相続人がそれぞれ相続税を納税する必要があります。
しかし、未分割のまま申告期限を迎えた場合には、誰がどの財産を相続するかが決まらないため正しい相続税が計算できず、相続税を軽減する特例等が使えるかどうかも判断できません。
一方で、相続税の申告期限を過ぎると様々なリスクがあるため、軽減特例が利用できず相続税が高額になりますが、一旦、仮の申告書を作成し、仮の納税額を納税します。
この場合には、次の4つのリスクを伴うことを覚悟する必要があります。
2-1.軽減特例が使えず相続税は高くなる
相続税には、適用条件に該当する場合に大幅に相続税を軽減できる特例があります。
「適用条件に該当する場合」という点が大切で、誰がその財産を相続するのかによって適用条件に該当するかどうかが変わってきます。
よって、未分割の状態では、要件に該当するかどうか分からないため、適用せず申告をすることになります。
軽減特例が適用できれば本来それほど高額ではない相続税も特例を利用しない場合、かなり高額になる可能性があります。
また、これらの特例は相続税の申告期限内に提出した場合のみ適用されますので、期限内に申告しない場合には適用ができなくなります。
表1:未分割の場合は使えない特例
【未分割で特例が使えないケース】
亡くなられた方:お父さま
相続人:お母さま、長男、長女
財産:相続財産1億円
※ご自宅5,000万円、現金5,000万円
※未分割のため軽減特例が使えない
(1)未分割かつ法定相続分で申告した場合
1億円-4,800万円(基礎控除額)=5,200万円
法定相続分で相続すると仮定した場合の相続税は合計630万円
→ お母さまが315万円
→ お子さま2人が各々157.5万円ずつ
(2)分割協議が調い法定相続分で申告した場合
6,000万円(5,000万円+5,000万円×0.2)円-4,800万円(基礎控除額)=1,200万円
法定相続分で相続すると仮定した場合の相続税は合計120万円
→ お母さまが0万円
→ お子さま2人が各々30万円ずつ
以上から、遺産分割協議が調っていれば、同じく法定相続分で分けることになったとしても「小規模宅地の特例」や「配偶者の税額軽減の特例」を使うことができるので、お母さまは0円、お子さん2人が各々30万円ずつの合計60万円となります。
図2:未分割で申告する場合の税額のイメージ
2-2.相続税の申告の再提出が必要
申告期限前に一度提出した相続税の申告書に加えて、遺産分割協議が調ったら、特例を適用した金額で再度申告書を作成して提出する必要があります。
再提出をすることで、多くの場合は仮の申告時に多くの税金を支払っていますので、多く支払った相続税の還付を受けることができます。
2-1の例を参考にすると、仮の申告時に630万円を納税して、分割が調った時点で60万円の相続税の申告書を提出することで差額の570万円が戻ってきます。
しかし、申告をし直すわけですから、もう一度申告書を作成する手間がかかることと、税理士に依頼している場合は、再度報酬がかかってしまうリスクは残ります。
2-3.相続税の納税資金の調達に困る
配偶者の税額軽減の特例や、小規模宅地等の特例は多くの方が利用できる相続税を軽減できる特例です。
これらの特例を活用して相続税をゼロ円にできる場合も多いのですが、遺産分割協議が調わず未分割であるがために使えず、納税する必要が生じる方もいます。
しっかりと分割が調えば戻ってくるお金と言っても、一時的とはいえ、多額の納税資金を用意することは大きな負担になります。
2-4.物納が利用できない
相続財産が不動産ばかりで納税資金がまったく用意できないといった場合に、現金の代わりに相続財産である不動産を納める「物納」という制度があります。
物納を選択する場合には、申告期限内に手続きをすることと、未分割ではなく遺産分割が調った状態であることが必要です。
似たような考え方としては、農地の納税猶予も同じで、期限後には認められません。
※物納について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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表2:申告期限まで未分割だと利用できない制度
3.未分割のまま相続税の申告をする際の2つの対処策
すでにご説明をしたとおり、未分割の場合には特例を適用せず、いったん「仮の申告」をします。
この仮の申告をすることで、期限を過ぎたあとでも遺産分割協議が調えば必ず特例を適用できるようになります。
対処策として実施が必要なのは仮の申告であることを明確にする「分割見込書」の作成と添付、それから協議が調った後の再申告です。
3-1.「分割見込書」を必ず添付【期限後の特例適用】
未分割の状態で相続税の申告をする場合には必ず「申告期限後3年以内の分割見込書」を仮申告の際に提出します。この書類を提出することによって、分割協議が調ったにのちに特例の適用を受けることができます。
分割見込書を添付する意味は、税務署に期限後に特例を適用したい理由や、正式な分割が決まれば申告をやり直したい理由を申告して認めてもらうことです。
添付し忘れると期限後申告となり、特例の適用が認められない可能性もありますので十分注意してください。
分割見込書は国税庁のホームページからダウンロードすることができます。
<手続名>相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続
ダウンロード
※相続税の申告期限の延長について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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3-2.協議が調えば速やかに申告し直す【相続税の還付】
遺産分割協議が調ったら、その日から4ヶ月以内に申告をやり直します。遺産分割が終わり全員合意したにも関わらず、申告をやり直さないでいると還付が認められないため注意しましょう。
相続税を還付してもらう申告のことを「更正の請求」というのですが、分割見込書を添付している場合は、分割協議を3年以内に調えて、協議成立後4ヶ月以内に更正の請求手続きをします。
※更正の請求について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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4.未分割のまま相続税の申告をする場合の6つのSTEP
どうしても申告期限までに分割協議がまとまらない場合におこなう「未分割のままの相続税の申告の流れ」をご説明します。
また、ご自身たちだけでは申告は難しいと判断された場合は、申告期限まで極力余裕を持った状態で税理士などの専門家にご相談されることをおススメ致します。
図3:未分割申告をする場合の手続きの流れのイメージ
4-1.STEP1:10か月以内に法定相続分で分割した申告書を作成
法定相続分で財産を分けたとみなして申告書を作成します。
繰り返しになりますが、特例は使うことができませんのでご注意ください。
4-2.STEP2:期限後に特例が適用できるよう「分割見込書」を添付
期限後3年以内に遺産分割協議を調えて再申告をする場合には、国税庁のホームページから「申告期限後3年以内の分割見込書」をダウンロードして必要事項を記入して、必ず相続税の申告書に添付します。
分割見込書は国税庁のホームページからダウンロードすることができます。
<手続名>相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続
ダウンロード
4-3.STEP3:期限内に申告・納税を終わらせる
亡くなられてから10ヶ月以内という期限内に相続税の申告と納税を済ませます。
特例が適用できないために一時的に多額の相続税を納める必要がありますので、納税資金の調達が必要となります。
4-4.STEP4:3年以内に分割協議を調える
仮の申告と納税が終わったら、遺産分割協議を再開させます。3年以内と期限は延びましたが協議を進めない限りあっという間に時間が経過します。
また、一時的とはいえ多額の税金を支払っていることを考えると早めに分割協議を調えて返金をしてもらうことが得策です。
4-5.STEP5:協議成立後4ヶ月以内に更正の請求
分割協議が調ったら、調った日の翌日から4ヶ月以内にすでに提出した相続税の申告書を修正する申告書を提出します。修正した内容が認められると税金が戻ってきます。
払いすぎた税金の還付を受けること「更正の請求」といいます。
※更正の請求について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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4-6.STEP6:更正の請求後3ヶ月~半年で相続税還付
更正の請求をしたら税務署が内容を確認します。確認期間は3ヶ月~半年ほどかかります。
更正の請求が認められた場合、税務署から各相続人宛に「相続税の更正通知書」が届き、その数日後に還付金が各人の指定した口座に振り込まれて完了となります。
図4:お金が還付されるイメージ
5.さいごに
相続税が未分割の場合の対応についてご理解いただけましたでしょうか。
未分割のまま相続税の申告をすることはいくつかのリスクを伴うので、できるだけ10ヶ月以内に分割協議を調えたうえで申告納税をすることをオススメします。
もし、どうしても上手く協議がまとまらない場合は、早めに相続専門の経験豊富な税理士に相談することで解決の糸口が見つかります。
分割協議の進め方についてはこちらの記事もご確認ください。
※遺産分割協議について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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