
相続税の取得費加算とは?不動産を3年以内に売却するメリットと要件
不動産を相続しても、様々な理由から売却しなければならないことはよくあることです。
不動産を売却するとその利益に対して「譲渡所得税」という聞きなれない税金を納税する必要があります。
もちろん、売却した金額から購入した費用や経費を差し引くことができますが、何とか相続税を差し引くことができないかと考えられる方は多くいらっしゃいます。
相続した不動産は、相続税を減額する特例を利用すると相続税の申告期限まで売却できません。
相続税を納税した後に売却しますので、相続税分が経費になるのかならないのか大きく差が生じます。
本記事では、相続税を支払った土地を売却した場合に、「相続税の取得費加算」という制度の概要と、実際にどのよう利用すれば良いかについてご説明していきます。
Contents
1.不動産を売却した利益から納税した相続税額分を減額できる
相続した不動産を売却した場合、売却した金額に対して税金がかかるのではなく売却した金額から購入した金額や経費を差し引いて、利益が出ていればその金額に対して「譲渡所得税」という税金を納税する必要があります。
この際に、相続税を納税している場合に限りますが、この売却した土地にかかった相続税額分を「相続税の取得費加算の特例」として、経費同様に差し引くことができます。
税金の種類が異なるとはいえ、同じ財産に相続税と譲渡所得税を二重で課税することは、納税者の負担が非常に重くなるため、3年以内に売却した場合、すでに支払った相続税分は軽減するという考え方です。
同じ土地を同じ条件で売却した場合でも、相続税を納税されていない方は、この対象とはなりません。
また、相続税の取得費加算の特例を適用すると、譲渡所得が抑えらますので、譲渡所得に紐づく所得税や住民税も軽減できるということになります。
図1:不動産を売却したときに課税される譲渡所得税は取得費加算の特例で軽減できる
2.「相続税の取得費加算の特例」により減額されるのは譲渡所得税
相続した土地を売却する場合、土地を売却した金額(譲渡価格)から必要経費をたくさん引くことができれば売却益(譲渡所得)が少なくなるため、譲渡所得税が減額されます。
この特例は、実際の利益が減るわけではなく、譲渡所得税を計算するための売却益(譲渡所得)を少なくします。
譲渡所得税は、「売却益(譲渡所得)×税率」で計算します。
図2:売却した金額から相続税額分を差し引くイメージ
相続した土地を売却した際の売却益(譲渡所得)の計算は図3のとおりです。
一般的な土地を売却した際の売却益(譲渡所得)の計算は図4のとおりです。
取得費や譲渡にかかった経費は同じであっても、相続税を納税した不動産であれば、取得費加算として追加で差し引くことができます。
図3:取得費加算の特例を適用する場合の譲渡所得の計算式
図4:一般的な譲渡所得の計算式
【取得費】 不動産を購入した当時の土地や建物の代金、建築代金、購入手数料などの合計額
【譲渡費用】 売却の際の仲介手数料、測量費など、売却のために支払った費用の合計額
※譲渡所得について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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2-1.売却した金額から差し引く取得費
取得費とは、土地の場合は購入代金や購入手数料などの合計額です。
建物の場合は購入代金、または建築代金などの合計額から減価償却費相当額を差し引いた金額のことです。
しかし、購入した時期が古く購入当時の資料等が残っておらず、明確な取得費が分からないというケースも多々あります。よって、次の2つのうちいずれか大きい方の金額を取得費とみなします。
①取得費がわかるとき(実額法) :不動産購入代金+取得費用(購入手数料など)
②取得費がわからないとき(概算法) :譲渡収入金額(売却額)×5%
実際の取得費が譲渡収入金額の5%相当額を下回る場合は、取得費は譲渡収入金額の5%相当額となります。
2-2.取得費に加算する相続税額の計算方法
取得費に加算する相続税額の算式は次のようになります。
譲渡した財産に該当する金額を計算していきます。譲渡価額(収入金額)に損失が出た場合は特例を適用することはできません。
たとえば、土地・建物を売却したときに購入価格よりも売却価格が低い場合等です。
図5:取得費に加算できる相続税額の計算式
3.「相続税の取得費加算の特例」を使った具体的な計算例
具体的な計算例を考えて見ます。
亡くなられた方:お父さま
相続人:長男一人 ※小規模宅地の特例が利用できない
相続財産:1億3,000万円 ※現金・土地など(土地の評価額は3,200万円)
相続税額:2,120万円
上記の要件の中で、長男は相続した土地(取得費2,000万円)を4,000万円で売却し、仲介手数料等を加味して経費は200万円かかりました。
取得費は、①分かっている2,000万円/②譲渡した金額4,000万円の5%である200万円を比較して高額な2,000万円が適用されます。
取得費加算される相続税は、
2,120万円 × 3,200万円/1億3,000万円 = 521.8万円
(相続税額) (売却した土地の占める割合)
取得費加算の特例を適用した場合の譲渡所得は
4,000万円(譲渡収入)-(2,000万円(取得費)+521.8万円(加算できる相続税額)+200万円(譲渡費用))
となり、 譲渡所得は1,279万円となります。
譲渡所得税は、譲渡所得に税率を掛けて求めます。
この場合には、5年以上所有していることになりますので、長期譲渡所得時の税率である20.315%を適用します。
1,279万円 × 20.315% = 259.8万円
もし、相続税の取得費加算の特例を使っていなければ、365万円の譲渡所得税の納税となります。
※譲渡所得税について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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4.取得費加算の特例を受けるための3つの条件
相続税の取得費加算の特例を受けるためには、次の3つの条件のすべてに該当する必要があります。
1つでも当てはまらない場合には、取得費加算の特例を適用することができませんので注意が必要です。
4-1.条件①:相続や遺贈により取得した財産であること
相続や遺贈によって財産を取得した人が、その相続財産をご自身で売却することが条件となります。
そして、相続財産として引き継いだ不動産の取得費を考える場合には、亡くなられた方から引き継がれるという考え方をしますので(※)、取得時期もその不動産を購入した取得日を引き継ぎます。
取得日がリセットされてしまうと譲渡所得税の税率が長期譲渡所得時の税率を適用できず、高額な税率になってしまうためこのような考え方が取り入れられています。
※亡くなられた方が、買換特例を受けているときは特殊な取得者の計算をしますのでご注意ください。
4-2.条件②:相続税が課税されていること
1章でもご説明しましたが、その財産を相続した方が相続税を支払っていることが条件となります。
配偶者の税額軽減や各種特例を受けて相続税の納税をしていないときは対象外になります。
4-3.条件③:相続発生から3年10ヶ月以内に売却していること
その財産を、相続税の申告期限から3年を経過する日までに売却していることが条件となります。
図6:取得費加算の特例の期限
5.取得費加算の特例を受けるには確定申告が必要
不動産や土地を売却して利益が出た場合には、翌年必ず所得税の確定申告をする必要があります。
取得費加算の特例を受けるためには、この所得税の確定申告時にその旨を申告します。
所得税の確定申告書には、具体的に『措置法第39条』と記載することで、取得費加算の特例を適用する旨を記載したことになります。この確定申告書と特例の適用に必要な添付書類を税務署に提出すれば終了です。
5-1.売却した翌年の確定申告で申告する
相続財産を売却して利益が出た場合には、売却した年の翌年の3月15日まで確定申告を行う必要があります。相続申告の期限である10ヶ月を過ぎて相続税の申告した場合、この取得費加算の特例を適用することはできません。期限内に相続税申告と納税をすることで特例を受けることができるので注意が必要です。
図6:確定申告の申告期限
5-2.確定申告時に必要な添付書類
①相続税申告書の写し
②相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
③譲渡所得の内訳書土地・建物の譲渡の場合:確定申告書付表兼計算明細書【土地・建物用】
株式の譲渡の場合:株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
※②③はそれぞれ国税庁HPより入手し作成することができます。
本来であれば、相続財産の譲渡によって所得(利益)が増えた場合にのみ所得税の確定申告が必要となりますが、不動産等を売却した場合で損失が出たときにも確定申告をしておくことをおススメします。
本来は必要ありませんが、税務署に対して損失であったことを明確にすることで、税務署からの問い合わせが来たりすることを事前に防ぐことができます。
6.まとめ
相続や遺贈により取得した土地や建物などの財産を売却する場合には、相続税の申告期限から3年間の間がお得になることがお分かりいただけたと思います。
3年以内に売却できれば、その土地や建物に対して支払った相続税額を取得費加算という名目で差し引くことができ譲渡所得税を軽減できます。また、譲渡所得税を軽減は、所得税や住民税が高くなることも回避します。
相続税の取得費加算の特例を受けるためには、所得税の確定申告が必ず必要となりますので、売却して一安心せず、翌年の確定申告までしっかりと対応をしましょう。
相続税の取得費加算額の計算や確定申告書の作成に不安のある方は、相続税に強い税理士にご相談されることをオススメします。
また、このような対策を一緒に考える場合には、相続税に強い税理士と一緒に活動している不動産チームへ売却の相談をおこなうとワンストップで対応してもらうことができ、手数料も最小限となります。
また、所得税は3月15日、住民税は6月以降に納税します。住民税を忘れずにとっておきましょう。